相談10

パンツをはいてくれない私の母

 私の母は、おふろからあがって寝るまでパンツをはいてくれません。別にそれだけならかまわないのですが、彼女は自分のことを「パンツなしランドのプリンセスだ」と言うのです。私は母のパンツをはかないという行為と、その「パンツなしランド」という、てんでセンスのないネーミングが我慢できません。どうすればよいのでしょうか。ちなみに母は四十一歳、高校教師です。

(徳島・悩める乙女・17歳)

らもさんの回答

「パンツなしランド」というのがセンスのない命名だとは僕は思いません。

 たとえば、日本人をこのパンツという言葉を基調として、むりやりに三つの人種に分類するとします。一番若くておしゃれなグルーブにとっては「パンツ」というのはズボンのことです。そういう人と話をしていると、「あら、中島さん。今日のパンツはすてきですね」などということを言われたりします。以前は僕も「この人は透視能力があるのかな」と目を白黒させていましたが、最近ではようやく慣れてきました。こういう僕くらいの世代を第二のグループだとします。第一のグループから見れば、これはけっこうオジン・オバン族なのですが、世の中にはもっともっと恐ろしい第三のグループが存在するのです。

 たとえば田舎などに行くとよく、自分のことを「わし」と言うようなおばあちゃんがいますが、こういう人たちは「パンツ」などというおしゃれな言い方はしません。

「おじいさん、明日から旅行じゃけど、さるまたは三枚もあればええかのう」というのが通常の会話です。なかには「きゃるまた」と言う人もいます。

 僕は昭和十年代の婦人雑誌を何十冊と手に入れて持っているのですが、これらの本の広告を見ていますと、「快適にして廉価なる乳バンド!」などと書いてあります。ブラジャーなんていうのはここ何十年の言葉なのですね。そもそも日本の女性がパンツを必ずはくようになったのは、昭和七年の白木屋の火事以来のことですから、たかだか五十余年の歴史しかないのです。「パンツなしランド」のお母さんはなかなかレトロでおしゃれじゃないですか。

中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん

上野さんより

「明るい悩み相談室」がおもしろいのは、相談者が、どや、こんなおもろい家族、おらんやろ、と他人には言えない家族の秘密を暴露してくれるところ。「おふろからあがって寝るまでパンツはかない」オジサンもオバサンもオネエさんも「いるいる感」満載。高校教師だってところがいいですね。外では教師面してストレスがたまっているのだから、家では「パンツなしランドのプリンセス」への変身を認めて、解放してあげましょう。