相談11

温水プール放尿母子の悩み

 家から歩いて五分の温水プールに、二年前から元気よく通っている女子高生です。温水プールに入るとあんまり気持ちがいいので、悪いとは知りながら「おしっこ」のたれ流しを平気でし続けています。とはいえ、少々気になるので、やはりプール中毒の母に相談したところ「あっはっはっは。あんたも? 実はわたしもよっ……」。やめられそうもないのですが、母子でご相談いたします。よろしく。

(東京・似たもの母子)

らもさんの回答

 何というおそろしい母子だ、と目をむいてお怒りになる方がひょっとすると読者の中におられるかもしれません。しかし、イエス・キリストはおっしゃいました。「この中で罪のない者があればこの女に石を投げよ」と。この「罪のない者」はそのまま「プールでおしっこをしたことがない者」ということばに置きかえても、そうメチャクチャな差し障りはないのではないでしょうか(多少の差し障りはあるでしょうが)。

 現に僕は石を投げられてもあたりまえ、というくらいこれをやっています。ひょっとすると自分だけかもしれないので、不安になって友人に電話でたずねてみました。答えは「プールのおしっこ? ああ、あれはなかなかええもんや。僕の場合は背泳ぎでその現場を後へ後へと遠ざけていきながら、移動しつつやる。そのときにカエル泳ぎの足でおしっこをかきまわして拡散させるようにする。これはつまり、エチケットや」というものでした。

 これでサンプリング数が四人で、プールでの経験者が四人。つまり統計的にみて、ほぼ一〇〇パーセントの人がこれをやっていると考えてまちがいないのではないでしょうか。

 高校のときに生物学の先生に習ったのですが、この世で一番きれいな液体は「排出時の尿」なのだそうです。体内で完全殺菌されて出てくるために、顕微鏡でみても一匹のばい菌もいないといいます。冬の海に潜るときなどは、ウェットスーツの中に放尿して暖をとるのが一つのテクニックになっていますが、この話を知っていると不快感はありません。

 そういうことですから、おおいに母子でおやりになるといいでしょう。僕はもう二度とプールに行かないことにしたので関係ない話ですから。

中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん

上野さんより

やっぱり。プールのおしっこ、み~んなやってるんだ。これも「あるある感」満載のヒミツを暴露した相談。そうだったのか、温水プールが微妙に人肌の温度に保たれているのはそのせいだったのか、と謎が解けます。らもさん、「僕はもう二度とプールに行かないことにした」なんて言わないで、これからも温水プールの温度管理に、僕も貢献します、って言ってほしいですね。