入院中の息子の「もんで」に困惑
らもさん、これはまじめな質問です。五歳の息子が、二年前に下痢で入院以来、ときどき足の指が気持ち悪いというのでもんでやります。今日もいつものようにもんでやっていると「何だかちんこも気持ち悪くなってきた。ちんこもんで」と言うのです。一瞬ためらいましたが、もんでやると一分もしないうちに「もういい。足の指もむのは上手だけど、ちんこもむのは下手だね」。ほっとしたような、がっかりしたような妙な気持ちです。
(保谷市・迷えるモミー・35歳)
それはきっと、どっか変なツボを押さえてしまったんでしょうね。僕はよく知りませんが、足の裏のあたりは人体のツボのかたまりだと聞きます。足指をもんであげているうちに、はからずもそういうツボを押してしまったにちがいありません。
かといって、お母さんがなにもそこまでアフタケアをしてあげる必要はない。こういうときこそ、「自分のことは自分でしなさい」という伝家の宝刀を抜いてピシャッとやるベきです。ついでに言うなら、足の指だって自分の手の届くところですから、そういうところは自分でもませるようにしたほうがいいのではないでしょうか。そうでないと、大きくなったときにたいへんです。受験生のくせにホテルでマッサージさんを呼ぶとか、新婚旅行のスイートルームにもマッサージさんを呼ぶとか、どことなくおじさん臭い若者になってしまうような気がするのです。
僕のまわりにも、凝る体質の人はたくさんいます。そういう人の要求に応じてもんであげたりするのは一種のボディートークになって決して悪いものではありません。
ただ、それも、たいていの場合、「足の裏を踏んでくれ」とか「腰を踏んでほしい」といった要求で、本人自身ではできないことだから説得力があるのです。これが、「ちょっと肩もんでくれる」と言われた場合、少なからずムカッときます。自分の手の届くところをもませるというのは、やはりそこに「社会的力関係」が介在してくるわけです。
ましてや、「ちんこもんで」というのは、問題をさらに複雑にします。いまのうちに「自分のことは自分でする」ようにしつけておけば、将来もめごとを招くこともないでしょう。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
「明るい悩み相談室」には、ときどき下ネタでどっきりする相談が登場します。これもそのひとつ。もし5歳の息子が「お母さん、ちんこもむの、上手だね、今度もやって」「うう、もっと、もっと~」と言い出したらどうするんでしょうね。はらはらしました。今度ちんこもむときは、わざとヘタにやって、「痛っ! もうお母さんには頼まない」と言わせましょう、とアドバイスする方がいいのでは。