「々」の正式な読みを尋ねる父に説明を
先日父がやって来て、「人々」と下手くそな字で書いてみせました。はじめの字を「ひと」と読むのはわかるが、次の字はいったいなんと読むか、と言うのです。「わしは今まで無意識に『ひとびと』と読んできたが、突然いま、『々』の字の読み方を知らないことに気づいた。『山々』にしろ『人々』にしろ、上につく字しだいで読み方が変わるとはけしからん。正式には何と読む字なのだ」と言うのです。父に納得のいく説明を。
(徳島・漢字百点の娘・12歳)
漢和辞典を二冊、くまなく調べたのですが、一冊の方には「々」はのっていませんでした。もう一冊の小学館『新選漢和辞典』には、三画の字の項に「々」が出ています。
正直に申し上げてお手上げです。「々」の字に読み方があるのか、あるいはどういう由来でこういう使われ方をするようになったのか、ついに僕にはわかりませんでした。漢字の部首でいくと、「、」の項になります。この「、」にだって「チュ」という読み方があるのに、「々」には読み方が書かれていません。説明文には「同じ漢字のくりかえし記号」とあるだけです。読み方がないということは、これは漢字ではなくて日本独自の記号であると考えるほかないでしょう。
うちのワープロで「々」を打つときには、まず「同」という字を呼び出して、それを変換します。「同」の字を漢和辞典で調べると、この字は「𠔼(ぼう)」と「口」から構成されています。「𠔼」は板を二枚重ねた状態をあらわしており「重なる」という意味の部首です。これに口をつけて、人々が異口同音に同じことを言う様子を示します。
この「𠔼」は、崩していくと「々」にもなりますが、やや苦しい説明ですね。「々」に似た漢字では「攴(攵)=ホク、ボク。ポクッとふたつに割れるの意。ぽんと打つの意」「爻=ギョウ、コウ。易の棒の交わった形をふたつ重ねたもの。交わる、変わるの意有り」「夊=スイ。人の両足に後ろからついていく形を象形したもの。行く、ゆっくり行くといった意味」。
しかし、結局のところよくわからない。とりあえず僕は「々=クローン」と読むことにしますが、だれか本当のところを教えて下さい。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
小学生の時、担任の先生が「オドリジ」だと教えてくれました。しかし、今になって調べると「〻」であって「々」ではありませんでした。「タタミジ」ともいうと教えてくれたのですが、「畳字」の、訓読みではなく音読みの「ジョウジ」なのでしょう。「あゝ」などに使う「ゝ」です。以前、出版社の人に「ノ」と「マ」を繋いだ形なので「ノマ」あるいは「ノマテン」というのだと教えてもらったこともあります。単に名称であって、そうキーボードを叩いても、この記号に変換はされません。