どうなる?中三で"おじんくさい"僕
私は中学三年生の少年です。よく"おじんくさい"と言われます。趣味は落語を聞く、相撲を見るなどで、芸能界もほとんど知りません。いまだに「少年隊」と「シブがき隊」の区別もできず、二月くらいまで「TMネットワーク」をテレビ番組名だと思っていました。肩こりも激しく、自分でお灸(きゅう)を買ってしまったくらいです。今後、三味線や盆栽に走り出したりしないかと心配する今日このごろ。どうしたらいいでしょうか。
(千葉・O・Y・14歳)
お手紙を拝見していて、はからずも僕が中学生だったころの級友の一人を思い出してしまいました。この友人K君は、この人ほど詰め襟の似合わない少年はいないのではないか、と思わせるくらい"おじんくさい"子でした。やせてヒョロリと背が高く、猫背で金ぶちの眼鏡をかけていて、ほお骨とノドボトケが突出していました。おまけにうちの中学は丸坊主制だったので、K君の容貌はどうみてもマハトマ・ガンジーでしたから、彼はいつからか「ガンジー」と呼ばれるようになりました。
ある日、生物の授業で、試薬を使った尿検査の実習がありました。各自、試験管に自分の尿を取って、何種類かの試薬で実験をするのです。先生が指導しながら、「さて、次はBの液体を入れてみるように。入れたらよく振る。色が変わったかね? 変わらないよね。それでいいんだ。この薬は、尿の中の糖分に反応するんだ。君たちの年の人には関係ないが、中年になって糖尿病にかかったりすると、この尿中の糖分が反応して全体がまっ赤に変色するんだ」。僕はそのとき、何げなくガンジーの方を見たのです。ガンジーは石のごとく硬直した表情で、自分の試験管を凝視していました。その試験管の中には、まっ赤っかに変色した尿が……。彼の場合は、一時的な体調の崩れで糖がおりていたらしいのですが、この日以来「ガンジー老人少年説」は決定的なものになりました。
よく「何となく違和感を覚えさせる顔」をした人がいます。大人なのに子供の顔をした人、逆に子供なのに大人の顔をした人。そういう人には年齢的にピタッとはまる時期というのが決まっているように思われます。あなたの場合、高齢になったときにピタッと歯車がかみ合う。ということは長生きするように運命づけられているのです。喜びましょう。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
人間には生理学的な特殊相対性理論というものが当てはめられるようです。若い頃から老け役を演じる役者もいれば、80代半ばで現役の刑事役を務める俳優もいるのです。若くして老成した人は、そのまま時が止まったようになることもあるのです。逆に、男女問わず、若い頃アイドルだった人たちのその後の時間の進み方がいかに残酷か、という例は枚挙にいとまがありません。おまけに落語がお好きなら、笑いの効用で免疫力も維持、若々しい老後を過ごせるでしょう!