花時計見るたびインチキと怒る私
砂時計が砂の落ち具合で、水時計が水の落ち具合で時を知らせるように、花時計というのは花の咲き具合で時を知らせるものだと思っていました。九時には九時ごろ開花する花がばっと咲くといった具合に。でも、単に「花に飾られた大きな時計」と知ったとき、おかしい、インチキだ、筋が通らない、とわめいてもみんなバカにして相手にしてくれませんでした。それ以来、花時計を見るたび“インチキ!”と心中でわめいています。私の考えはおかしいでしょうか。
(東京・すじ子の好きな女・52歳)
おかしいです。たしかに「鳩時計」「日時計」「腹時計」など、それぞれに鳩や日光やおなかの減り具合などが時を告げてくれます。
それなら「腕時計」は腕が持ち上がった角度で時を知らせるのか、というとそうではありません。「柱時計」にしても、柱の傾き具合で時を告げるわけではないし、「懐中時計」「目ざまし時計」もそうです。
ただ、自分の無知や勝手な思い込みのために、くやしい思いをしたり、ガッカリしたりするのはだれもが経験することです。
僕が子供のころはカラーテレビの普及期で、番組自体もカラーのものはまだ珍しくて、新聞のテレビ欄にも番組名の頭に「カラー」と表示が出ていました。僕の家は白黒テレビだったのですが、僕は「カラー」と表示されている番組は受像機に関係なくカラーで映るものだと信じ込んでいたので、「うちのテレビは壊れている」と言って泣きわめいたりしました。やはり白黒テレビしかない隣の家の子に、それとなく様子を聞いてみたりしたのを覚えています。
六甲山から石英の塊を家まで持ち帰ってきて、水晶になるのを楽しみに待っていたこともありました。いつまで待っても水晶ができないので「この石英はインチキだ」と怒ったりしました。
暮れになるとよく新聞に出ている「慈善ナべ」というのを「大人になったら食べてやろう」と思っていたころもあります。真相を知ったときの「やり場のない怒り」はよくわかりますが、やはりあまり人には言わないほうがよいようです。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
「砂時計」も「水時計」も時計の種類を表す言葉ですが、「花時計」は「状態を表す」意味合いも含まれたネーミングです。「腕時計」は腕によって時間が刻まれるわけではありませんし、「古時計」もおじいさんが動かしているわけではありません。ちなみに、原曲では「90years」となっているのに、日本語の歌詞は「百年」にされてしまっています。インチキだ!