相談8

サケの切り身の「北まくら」とは?

 主人は料理された魚の向きにこだわる人です。頭が左で尾が右向きに皿にのっていないと「この魚は北まくらになってる。死んだ者の向きで縁起が悪い」と申します。料理された魚は死んでいるわけだと思うのですが、一応気をつけて出します。ところが、先日塩ザケの切り身を出したところ「尾頭(おかしら)の向きが逆になっている。北まくらだ」と申します。切り身の頭は天井、尾は床を向いているので北まくらではないと思うのですが、このままでは魚料理を敬遠してしまいそうで……。

(千葉・A・N)

※編集部注:ご応募は実名ですが、ウェブ転載にあたりイニシャルでの掲載にさせていただきました。

らもさんの回答

 おっしやるとおり、お皿の上の魚はみんな死んでいるわけで、生き死ににこだわるならば全部北向きにしなければなりません。では北極に住んでいる人は頭を下にしてお皿に突っ立てなければならないことになります。魚屋さんだって「生きのいい魚」と言えなくなります。「死後間もない、死後硬直寸前の魚」では、魚を買う人がいなくなります。

 魚の盛りつけの作法では、たしかに頭を左に、尾を右に、腹を手前に、背を向こうに置いて出すのが決まりです(ただし、カレイの場合は頭が右です)。これは縁起がどうこういうことではなくて、おいしい部分を強調して出すからです。江戸時代に魚河岸が設けられたときに、魚を箱詰めにする際、頭を左にして入れることが定められました。そうしますと、上側の身はいいのですが「板つき」と呼ばれる下側の身は魚の重みで身割れがし、水けもたまりやすいので味が落ちます。ですから人にすすめるときには、おいしい上身の部分が上にくるように、頭を左にするわけです。川魚は背の部分がおいしいといわれていますから、この場合は頭は左でも背が手前になるようにして出します。

 切り身のときには、食べやすいように、皮のついている方を向こう側にし、背の方の身を左に、腹側の身を右にして出すのが作法です。ただし、皮の模様がきれいな魚の切り身なら、皮を上にしてもかまいません。

 縁起とかそういうことではなく、いかにおいしく楽しめるかで出し方が決まってくるわけですが、タコなんかの場合はどうするのでしょうか。だれか教えてください。

中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん

松尾さんより

死者を北枕にする風習はいつ始まったのか寡聞にして知りませんが、地球の磁場の関係で、実は体に良いのだという説を唱える研究者もいます。ではなぜ縁起が悪いと思われたのかというと、「為政者が、自分たち以外の『下々の者』に長生きをさせないために、秘伝にして、『死者への作法』としたのではないか」と主張しています。どちらにせよ気にしないでください。