もうママでもなし、四十四歳の母どう呼ぶ
私は十九歳の男子です。赤ちゃんのときから母のことを「ママ」と呼んでいました。高校に入ったころから、この呼び方が恥ずかしくて「おばはん」とか「ばばあ」とか用事のあるとき呼んでいます。ところが母はそんなとき、どんなに近くにいても絶対に返事をしません。母の年齢は四十四歳。「おねえさん」と呼ぶと「はーい」と返事をします。でもこの呼び方は変ですね。何かいい方法はありませんか。
(箕面市・ママっこ・19歳)
お母さんに「おばはん」とは何という非礼な。ただこの欄は道徳のコラムではありませんから別の方面からアプローチしましょう。
お母さんはそのとき二十一歳でした。親類の子供とあそんでいたらその子が、
「おばちゃん」
と呼ぶわけです。そのとたんガラガラッと娘気分が消えてしまいました。それ以来お母さんは「おばはんアレルギー」になってしまったのです。
ましてや「ばばあ」とは何事か。
お母さんは、遠からぬ将来あなたが結婚して子が生まれ「おばあちゃん」と呼ばれる日を楽しみにしています。それをよりによって息子のあなたから言われる筋合いはない。あまり無礼が過ぎるとそのうちにお母さんの反逆が始まりますよ。
僕はよくアジアに旅行しますが、旧植民地で日本語が通じるところになると旅行者の態度が格別に悪くなります。レストランに行くとウエートレスに、「ちょっとおばさん」
そういう扱いをされたときにはウエートレスの訴えをきいてコックが料理にツバをひとしずく入れているのでは、というのが僕の想像です。
あなたもコック長であり給仕でもあるお母さんに失礼なことは言わないように。
とりあえず、「お母さん」「母上」「ご母堂」とたたみかけていくと、お母さんも照れて、以前にも増しておいしい料理を作ってくれますよ。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
僕も子どもの頃は「パパ、ママ」と呼ばされていました。中学くらいからそれはまずいというので呼び方を変えることにしました。「父上、母上」「お父さん、お母さん」といろいろ試してみましたが、どれもなじまない。最終的に「おやじさん、おふくろさん」に落ち着きましたが納得してもらうのにずいぶん時間がかかりました。そのくせ自分たちは孫ができると平気で「おじいちゃんだよ~」とか言ってるんですからね。