天国の祖父との年齢差に悩む祖母
私の祖母は九十六歳。祖父を亡くしてから二十六年になります。どこといって悪いところもなく、ボケてもいません。私はまだまだ長生きしてほしいと思っているのですが、そんな祖母にも悩みがあります。あまりに年を取ってしまったので、天国へ行ったとき、祖父に嫌われてしまうのではないか、ということなのです。祖父は七十五歳で天国へ行きました。もうすでに二十歳以上も年上ということになります。天国へ行ったとき果たして祖父は?
(札幌市・教えてくだ妻・45歳)
たぶん心配はいらないのではないかと思います。なぜなら、あの丹波哲郎先生が、「人間は、死んだらみな二十歳(はたち)」と述べておられるからです。十歳の子も、百歳の老人も天国へ行けば二十歳。どうして「二十歳」なんですか、という問いに対して、丹波先生は「そうなんだから仕方がない」と答えられたとか、答えられなかったとか。ちなみに僕は、自らの学識を深めるために映画『大霊界』も封切り館で見ました。
天国へ行くには、まず若山富三郎によく似たエンマ大王の検閲を受けます。それから天国の宮殿へ通ります。そこは古代ギリシャ風の建物で、日本人もなぜかギリシャ風の衣装に身をつつんでいます。千葉真一や野際陽子に酷似した夫婦などは、金髪のカツラまでつけているのです。しかし、彼らはどう目をこらして見ても二十歳には見えませんでしたから、これはおそらく肉体的なことではなくて、精神年齢が若返るのだと思われます。
肉体にせよ精神にせよ、天国に行けばみんな二十歳になるというのは、一見たいへんけっこうなシステムのように思えます。しかし、よく考えると疑問点がなくはありません。
たとえば、おじさま趣味の女の子はどうするのでしょうか。どこを探しても青臭いガキばっかりで、悲しくなるにちがいありません。また年下の男の子が好きな人も、姉さん女房をさがしている若者も、それぞれに困るはずです。
もっと困るのは、自分の父親や母親がおない年の二十歳である、という点です。肩でももんで孝行してあげようという気など起こらないでしょう。親の方も、おない年の息子に小づかいをやる気にはならないはずです。たぶん天国では、いったん二十歳に戻った後、それぞれが申告して自分の望む年齢になるシステムがとられているにちがいありません。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
「天国では誰でも二十歳」という丹波先生のお言葉は正しいです。二十歳というのは、実に微妙で、各自が自分の進路を決めかねて、更に言えば、異性を見るときも自分の中で尺度がはっきりしていない。錯覚や思い込みで決めることが多いのです。したがって“変なヨメさん”や“ダメな亭主”を見抜くことも難しいのです。これが人生の妙味で、その結果、いい子や悪い子に恵まれるのです。その結果がアナタなのです。ですから、その奇蹟的出会いには「100パーセント安全」というのはないのです。