「青春」している父とつきあう法
私の父はテレビの青春ものが好きで、いつもかかさず見ているようです。私が見てもテレくさくて赤くなるような番組でも一生懸命に見ています。先日のことです。私は学校でくやしいことがあって、家で泣いていました。すると、父がやってきて両手をパッと開き、「泣くんならこの胸で泣けっ!」と叫んだのです。私はすっかりシラけてしまって、涙も止まってしまいました。こういう性格、何とかならないものでしょうか。
(京都市・S子)
それはお困りでしょう。なかなかの難問です。人間、だれでも多少の芝居気というものは持ちあわせているものです。ところが、そうした芝居気への思い入れが激しかったり、長期間にわたって続いた場合、それが人格に少なからぬ影響を及ぼすことがあります。
ただ、極めて広い範囲でいえば、人間の性格というのは、そうした外的刺激へのリアクションの集積として形成されていくものなのではないでしょうか。
あなたのお父さんの場合、要するにすぐ「青春」してしまうわけですが、なぜそうなってしまったのかを考えてみる必要がありそうです。深読みかもしれませんが、あなたのお父さんの年代というのは、戦中・戦後の不幸な時代に青春期を過ごしたわけで、一般にいうところの「青春を謳歌(おうか)する」体験をしていないわけです。お父さんは、自分に欠落しているその部分を無意識のうちに取り戻そうとしているのではないでしょうか。
ただ、浅読みすれば、お父さんは単に「うれしがりのおっちょこちょい」だということも考えられます。
どちらにしてもあなたはその「青春ごっこ」につきあってあげるべきです。それが、現に青春を謳歌できる立場にいる人間の持つべき思いやりでしょう。その際の決め方は、①「白い雲のバカヤロー!」と叫ぶ②「不潔だっ、大人なんて」と吐き捨てるようにつぶやく ③『太陽に向かって意味もなく走る。この三つです。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
らもさんの優しさが表れている回答。ぶっ飛んだ親に振り回されて……という悩み相談は数々登場しますが、らもさんの眼差しはいつも温か。「乗っかっちゃうのも楽しいよ」ってことを教えてくれます。私自身もそうでしたけど概して子どもの方がマジメで保守的だったりすることが多いもの。照れや恥ずかしさを突破した先に新しいものが見えるということを私に示してくれたのはらもさんでしたね。