相談3

毎朝シコ踏む階上のおばさん

 十九歳の独身女性です。事情があって、公団に一人住まいをしていますが、一つ悩みがあるのです。というのは、私の真上の階に住んでいるおばさんが、毎朝「しこ」を踏むのです。音は響くし、ホコリは落ちてくるし、何とかしたいのですが、どう切り出せばよいのでしょうか。

(大阪市・K子)

らもさんの回答

 このお手紙で私がまず疑問に感じたのは、上の階からくる怪音を、どうしてあなたが「しこ」を踏む音だと断定できたのかということです。文面ではわからないので推測しますと、次の三つの場合が想定できます。

 ①おばさんが「しこ」を踏んでいるところを、何かの拍子に見てしまった。

 ②「しこ」を踏む音と一緒に「どすこい、どすこい」というかけ声が聞こえてきた。

 ③おばさんは町内では知らぬ者のない「女相撲」の選手である。

 以上ですが、話が前に進まないので、おばさんは「しこ」を踏んでいたという前提のもとにお答えすることにいたしましょう。

 まず、ここで一番問題になるのは、あなたが「しこ」によってこうむっている迷惑うんぬんよりも、「おばさんはなぜ『しこ』を踏むのか」ということなのです。

 さまざまなストレスの山積する都会生活の中にあって、人はそれぞれ独自のストレス解消法をあみ出していくものです。育児疲れ、ぐうたら亭主、赤字の家計簿、そういったものからくるストレスの集積を、おばさんは「しこ」によってぶっとばしているのではないでしょうか。

 そんなおばさんの現象面だけをとらえて、いたずらに「しこ」だけを禁じたとして何になるでしょう。行き場のない鬱積(うっせき)は、やがて「重量挙げ」「走り幅跳び」などの、より過激な方へ移行することは目に見えています。この際、あなた自身の内面にもあるストレスを、おばさんとの「ぶつかりゲイコ」で解消してはいかがでしょうか。

中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん

まなみさんより

こちらはいつ読みかえしてもお腹がよじれる位笑ってしまう大好きな相談。どんなに辛いことがあっても、仕事でへまをして凹んでいても、これを読むと元気と勇気が湧いてくるのです。というのも私もシコを踏むのが嫌いではないから…というのはさておき、らもさんの回答、推測③のイメージと相談者の頭上にホコリが舞っている様子を頭に浮かべると、この方の境遇よりマシやわと思えてくるのです。読者(私)って勝手ですよね、いやほんと、すみません。