古いご飯新しいご飯のたたかい
私の家ではご飯は二台の炊飯ジャーで交代にたきます。片方が三分の一程度になればもう一方でたくのですが、お姑さんとお舅さんが新しい方ばかり食べるんです。昨晩もやはり新しいのを先に食べて、それがわからないようにするため、新しいご飯の上に古いご飯を移してありました。私は古いご飯の下から新しいご飯を掘りまくって主人と食べました。こんなことでは古いご飯はより古くまずくなってしまいます。良いお知恵を。
（兵庫県・おしんになれぬ嫁・29歳）
「古いご飯は誰が食べるのか」というたいへんドメスティックで深刻な問題なのですが、その「古いご飯」という概念自体がこの場合、もうひとつ説得力がないような気がするのです。
それは炊きたてのフカフカのご飯がおいしいのはわかっていますが、僕らのようなガサツな生活をしていると、「古いご飯」というのは「あたるか、あたらないか」の瀬戸際のラインに立っているものをいうのです。
昔の話ですが、僕の友人が何日かぶりに知人を連れてアパートへ帰ってきたときの話です。
アパートの戸をあけると、一種異様な匂いが立ち込めている。
それは不快な匂いではなくて、何となく芳醇な香りなのです。
おかしいな、というので部屋中を点検した友人は、最後の炊飯器を開けて叫びました。
「あ……酒になっている」
米が発酵していたわけです。
それを考えると、二台のジャーで代わる代わる炊き継いでいるような米に、古いも新しいもありません。
何だって順番なんだから、「古い人には新しいご飯」を食べさせてあげるといいんです。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ（朝日文庫）より転載 イラスト／死後くん
ご飯をほっておいたらお酒になった話は嘘でしょうな。麹菌がないと腐敗するだけで発酵はしないと思います。発酵と腐敗は、似ているようで微妙に違うんですな。身体にいいモノと悪いモノ。良い匂いとたまらぬ臭さ。らもさんは人間として両方持ち合わせてる人でした。ちょっとしたモノを発酵させて面白くする。たまにわかっていながら腐敗させて笑えないけど…やっぱり面白い。あの独特の酸味がなんとも粋人（すいィ人）でしたなぁ。