気になる時代劇のてっぺんソリソリ
私は時代劇のファンです。ずっと見てきて気になっていたことがあります。頭のてっぺんがソリソリになっているあのヘアスタイルです。いつごろどうしてああなったのでしょうか。私が心ひそかに思っているのは、ハゲの殿様がサイドの髪をまとめて上にのっけて、このスタイルを家来にも強要したのではないか。ご見解をお聞かせください。
(沼津市・知りたがり屋のオバン・40歳)
髷(まげ)についてはちょっと僕もうるさいのです。たとえばペリーが来航したときに船の上から望遠鏡で江戸の街をのぞき、
「勝てん。帰るぞ」
「なぜですか」
「全員アタマに短筒をつけて武装している」
ま、有名な噂話(うわさばなし)なんですが。
ちょんまげについては、あなたの推理がぴたり正解です。
江戸時代、徳川の大名本多忠勝がこのヘアスタイルを始めました。それまでより中ゾリを大きく取り、髷は高めに結います。ビンの部分には油をつけず、竹串の目を通したと。うしろのぷっくりしたところには油をつけたようです。この本多忠勝という人は「徳川四天王」と呼ばれたほどの権力者ですから、家臣も当然、おおそれながら、とマネをしたことでしょう。旗本奴(はたもとやつこ)が急にモヒカンにした、というのとは上下関係が違いますから。
ところで、この場合、非常に気になるのは、「ちょんまげにつくるだけの髪がなかった家臣」ですね。
「おお、今日のちょんまげはきまっとるの」
「なにをお上手な。上様こそ」
こうした上下のコミュニケーションがはかれないところから、だんだんと疎遠にされた人もいたかもしれません。その辺はご自分でお調べください。ところで「ちょんまげ」という名は、横から見たときに「✓(ちょん)」の形に見えるからだそうです。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
我々は、時代劇でちょんまげに慣れていますが、考えてみるとケッタイな髪形ですね。桂小枝くんが若い頃、顔を白塗りにして、ちょんまげ頭で創作落語をしてましたが、あの時のちょんまげはナスビだったんです。彼が自分でカツラを作っていて、うまくできずに悩んでいると奥さんに「ナスビでも乗せといたらええやん」と言われ、そのおかげで一躍ブレイクしたそうです。茄子は「成す」ということで縁起物になったそうです。知らんけど。