相談3

イヤな思い出に打ち勝つには

 私は過去のイヤなことを思い出すと、思わず「あー、ヤダ」とかいう言葉が口から出ます。夜、布団に入っていると、つい思い出すことが多く、一人でブツブツ言っているので、夫が変な目で私を見ます。昼間、台所などで思い出すと「イヤなことは忘れましょー」と大声で歌ったりします。そのうち、あらぬところで歌い出すのではないかと不安です。どうすれば過去のイヤな思い出に打ち勝つことができるでしょうか。

(北海道・うっかり京兵衛・25歳)

らもさんの回答

 僕の場合は、なぜか電車に乗っているときに限ってイヤなことをよく思い出します。これはひょっとしてあの振動のせいではないかと思うのですが、僕はこの状態を「頭にほこりが立った」と呼んでいます。

 電車の中で「ほこりが立つ」と、周囲の人の目があるのであなたのように大声を出して解消することはできません。我慢しているうちに、いつごろからかチック症状(くりかえして顔をしかめたり首を振ったりする症状)が出るようになってしまいました。やはりこういうことは大声で口に出して吹き飛ばしてしまうのが最良の方法のようです。

 最近、知人に憂うつをやわらげる面白い方法を教えてもらいました。イヤな気分で、深いため息が出そうなときに、ため息のかわりに「♪てけてんてんてんてん」と六回口に出して言うのです。

 これはたとえ自分一人のときでも少なからず勇気のいる方法ですが、実際に試してみるとなかなか効果があるので驚きます。

 最初の「♪てけてんてんてんてん」を言ったあとには自己嫌悪がより一層深くなって、落ち込みます。三回目くらいの「♪てけてんてんてんてん」で、もうこんなバカげたことはやめよう、とくじけそうになります。それが、四回、五回、といくにしたがって、だんだんヤケクソになってきて、六回目の「♪てけてんてんてんてん」のときには「わっはは、矢でも鉄砲でも持ってこい」みたいな気持ちになっています。「営業課長のワシがそんなバカなことできん」というような人にこそおすすめします。

中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん

内田春菊さんより

イヤな思い出、辛いですね~。お話し作りの材料になると、「儲けた!」とは思うけど、そうでない時は子どもに話しても「また始まった」と嫌われてしまうし、沈黙して堪えても表情が暗くなって来てしまう。だってあれ、ひとつ出ると芋づる式にぞろぞろ出て来ません? 「♪てけてんてんてんてん」を6回、いいかも! とやってみました。スーパーの帰り道に。出来れば大声、さらに、踊ったりもするといいんだろうな……らもさん有り難う!!