特売卵買い込む母のゆで卵攻め
うちのお母さんは、スーパーの卵の特売日になると「お一人様何パックまで……」をめがけて家族を動員し、二パックも三パックも買い込み、いざ買ってくると腐りそうになるまでほっておきます。腐りそうになると、十二、三個もまとめてゆで、おやつにゆで卵、お弁当にゆで卵、晩ごはんにゆで卵、朝ごはんにゆで卵となって困っています。うちのお母さんに一言いってやってください。
(徳島市・ゆでたま子・15歳)
卵の悪口を言うとは何という大それたことをするのですか。この世の中で卵ほどエラいものはありません。
僕は七、八年前に失職しまして、その間の九カ月というもの、収入が三万円という最低の生活を送ったことがあります。幸いなことに女房の実家が養鶏場だったので、卵だけには不自由なく、九カ月間、卵だけで露命をつないだわけです。
今でも冷蔵庫をのぞいて卵がないと、何となく不安に駆られたりします。
料理番組などを見ていますと、よく卵の黄身だけを利用して、卵白を捨てるシーンがありますが、ああいうのを見ても、何か犯罪を見てしまったような気持ちになります。卵の白身は良質のたんぱく質のかたまりですから、取っておいて泡立て器でホイップし、ゴマ油でザッといためるだけで、気のきいた中華の一品になります。
『豆腐百珍』という有名な本がありますが、それに類したもので『卵百珍』なる本があります。卵だけで百種類の料理ができるというものですが、お母さんの場合、ヤバくなるとゆでるだけというのはどうも芸がなさすぎるようです。この手の本を読ませて勉強してもらったらどうでしょうか。
こういう暑い時期には、暑気ばらいに「卵なべ」なんか珍しくていいと思います。まず土なべに鳥のスープをはり、ニラのザク切りを山のようにほうり込みます。そこにタカノツメを粗くちぎったものを、これまた山のようにほうり込み、溶き卵を食べる分だけ「の」の字を書くように流し込みます。煮えばなをすくって大汗をかきながら食べるのですが、卵がいかにエラいかがよくわかる料理です。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
卵鍋、なんておいしそうなんでしょう。確かにぜんぶゆで卵というのは飽きますね。と言いながら私、「朝からゆで卵3個食べるダイエット」というよくわからないダイエットをもう3か月行ってます。ゆで卵好きだし、やせたいというよりタンパク質不足で筋肉落ちないようにとやってるんですが、体重はぜんぜん減りません。一か月で20キロ落とした人がいるって話ですけど、その人はそれまでいったいどんな食生活だったのだろう。