友人のつまらない駄ジャレに悩む僕
僕の友だちTは、どうしようもない奴なんです。実につまらないしゃれなどを言って人を笑わそうとします。たとえば、「神戸に行こうべ」とか「りんごが溺(おぼ)れた。アップルアップル」とか。笑わなかったら「お前ってそんな奴だったのか。いいよいいよ」といじけてしまいます。しかし、こんなしゃれで笑ったら、他の友だちから「お前、あんなしゃれがおかしいのか」とばかにされます。こんな場合、笑ってあげるべきでしょうか、無視するべきでしょうか。
(奈良・ハエ男・15歳)
これは今のうちにせいぜいT君に「ドンをかまして」やったほうがいいと思います。「ドンをかます」というのは関西のお笑い芸人さんの間で使われる隠語です。たとえば、大物の芸人さんと新進の芸人さんが同じ番組に出たとします。新人のギャグに対して、大物は普通であれば大笑いしてあげたり、切り返して盛り上げたりするのですが、相手のことを気に喰わないとか認めていないとかいう場合もあります。せっかくのギャグを無視して受けてあげない。これを「ドンをかます」というわけです。友人のT君には今のうちに「ドンをかまし」て、ギャグセンスを鍛え上げてあげるべきです。でないとT君が将来もし人の上に立つ身分になった場合、多くの部下に迷惑がかかるからです。下の者は上の者に「ドンをかます」ことはできませんから、職場にひきつり笑いがあふれることになってしまいます。それだけではなく、将来のT君自身の親子関係にも影響するおそれがあります。その例として鳥取市のママタリアンさん(55歳)からの投書を全文紹介しましょう。
「食堂で娘がウェイトレスに『イタリアンスパゲティ』と言いましたので、『私、ハンブルグ、パルチザン』と言いましたら、娘は恥ずかしいと怒りました。缶ビールが並んでいるので、『アドバイザーもあるのね』と言いますと、ますます不機嫌になりました。食後、娘が『ブルーマウンテン』とコーヒーをたのんだので私も『マッターホルン』と言いましたら、それから二度と食事に行こうと誘いません。以来、娘は私と外出するときには三メートル離れて歩きます。私は申し訳ないので『三メートル前の娘と私は全くの他人です』というプラカードを持って歩こうか、と思っているのですが」
こういうのを「三尺下がって子の影を踏まず」と……失礼、駄ジャレを言ってしまいました。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
子が赤ちゃんだった頃、結構付き合い笑いをしているぞと感じてました。こうやって親が笑っていることを、学習して行くのではないか?その法則から言えば、お友だちの笑いのセンスは親御さんの影響が大きく、今から変えるのはかなり困難と思われます。まずは、お友だちはこのまま変わらないという覚悟を持って付き合っていくことが大事かもしれない。私にも会話が恥ずかしい知人がいます。たまに突っ込みますが、普段は諦めてます。