相談9

女三代「ほめ屋」で新商売成り立つか

 私、娘、孫娘の三人で畑のそばを歩いていたとき、収穫の様子を見て、思わず声をそろえて「ワァーッ、すごい」と叫びました。そうしたら、おじさんが大根二本とサツマイモを五つくれました。その後、海辺で地引き網の引き揚げを見て、同じように叫んだところ、魚をもらってしまいました。これを伯母に話すと「ほめられて悪い気のする人はいない。あんたたち女三代で新商売でも始めては」と冷たく言います。「ほめ屋」って商売になるでしょうか。

(川崎市・ホメイニ女史・52歳)

らもさんの回答

 なります。「泣き女」「笑いおばさん」が商売になるくらいですから、「しかり屋」「ほめ屋」も立派に食べていけるはずです。現に「しかり屋」みたいな評論家、知識人はテレビの中にあふれています。必殺技の「バカヤロー!」一本で引っぱりだこの方も約一名、いらっしゃいます。ほめる商売ですと、昔なら 幇間 ほうかん (たいこもち)、現代なら「広告屋」ということになりましょうか。

 広告というのは、ものをほめてほめてほめ倒してギャラをもらうのですから「ほめプロ」です。そのほめプロである僕の先輩が、北陸の某旅館へ「カニをほめ」に行きました。もちろん仕事です。松葉ガニの解禁日に撮影して、その旅館名物の「カニづくし」コースのCFを作るのです。

 いかにおいしそうに撮るかがほめプロの腕の見せどころなのですが、この場合は役者(カニ)が名優で、あまり技術は要しませんでした。まだ生きている松葉ガニに、板前さんがザクッと包丁を入れると、その断面からはちきれそうな肉がつややかにのぞいています。

 撮影中からスタッフ一同、生ツバを飲む思いでした。

 撮影がやっとすんで、待望の夕食になりました。運ばれてきたのは、人数分の「親子 どんぶり 」でした。「そのとき、部屋中に殺気が走った」と先輩は述懐しておられます。

 つまり、“ほめるプロ”でも、もらえるものには限度があるのです。大根二本と松葉ガニの間のどこかに画然とした一本の線がおそらく存在するのです。“何をほめるか”はよく考えることにしましょう。「元気そうなおじいちゃんですね」「よかったら持って帰ってください」といったケースも考えられますから。

中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん

内田春菊さんより

私もほめたらいただいた、が続いた時もありますが、仕事にするのは難しそう。「ほめ」を要求されることも結構あるんです。「私ね、これで〇歳」とか、「私、昔ブラスバンド部で」とか(ウエスト1・5mくらいで、家の前からここまで重くもないものを持って来ただけで汗まみれで息切れしてる人に)。あとでおまけしてくれることもありますが、どうも釈然としません。先払いだったらいいのかな。「ほめ値段表」でも作るか。