速読法も記憶術も私には無駄なのか
先日、「速読法」の本を七百五十円も出して買い求めて読破。しかし考えてみると読み終わるまでにずいぶん時間がかかったことに気づきました。以前にも「記憶術」の本を六百八十円も出して買ったのですが、本の内容をすっかり忘れてしまいました。私は合計千四百三十円の無駄をしただけなのでしょうか。
(神戸市・浪費術主婦・40歳)
胸にぐさりときました。たぶん、これを読んでいらっしゃる方のほとんどが胸にぐさりときてるんじゃないでしょうか。そう。思い起こせば小学生のころ、小遣いをためて買った本。『忍術入門』。第一章には、「まず足腰を鍛えよ」ということが書いてありました。
「長いふんどしをつけて、その布が地面にふれないように走る。それができたら毎日ふんどしを長くしていく。忍者は一日四十里を走るのだ」
しかし、当時でも普通の家に「ふんどし」ってないですからね。僕のオヤジだって「福助ぱんつ」をはいてました。第一、ふんどし姿でどこを走るのですか。「麻の実を植える。麻は毎日ぐんぐんのびるから毎日これを飛び越す訓練をする。名忍者“飛び加藤”もこれで跳躍力をやしなったのだ」。麻って、つまりマリファナですよね。もう少しで小学生のくせにおなわになるところでした。
中学生のときには意を決して『早稲田式速記』のテキスト全六巻を通販で買い求めました。二巻までやりましたが、その時点では、速記で書くとふつうの何倍も時間がかかる。おまけにあとで読み返すと何が書いてあるのかわからない。二巻でギブアップしました。だからいま、対談などで速記者の方がこられると尊敬してしまいます。
『催眠術入門』。これはいいところまでいきました。いわゆる「筋肉支配」の段階。相手をかちかちにしてしまうのです。同級生のコーノ君にかけてみたらみごとに全身硬直状態になりました。でも、解き方がよくわからない。
そういう失敗があるからこそ、いま忍者にも催眠術師にもならずにいられるわけで、ありがたいことです。金返せとは言いますまい。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
あたしも胸にぐさりときました。あたしは『これを読めば禁煙できる』という本を読みながら、そのストレスで一箱たばこを吸うような人間です。でも、そういう失敗があるからこそありがたい、とらもさんは優しい結論を出しています。ですよね、あたしの人生の財産は恋の思い出だったりしますが、よくよく考えてみると、それぜんぶ失敗した経験です。失敗したから、たくさんの男との出会いがあり、そしていくつもの思い出があるのです。