パスタのスプーンはどう扱えば?
スパゲティを注文すると、フォークとスプーンを出すお店があります。地元イタリアではスプーンは使わないそうで、私は、あのスプーンを見るとつい「検眼のポーズ」が頭に浮かび、スプーンを目に当てたくなります。それに、せっかく出されたスプーンを使わないで食べ終えると、何だか悪いことをしてしまったような気にもなります。あのスプーンはいったい、どう扱えばいいでしょうか。
(川崎市・めんくい男・41歳)
そういえば、この前パスタ専門店にはいったら、店のあちこちから、「ヘ・す・か・と・れ」「か・る・ほ・な・ら」といった不気味な声が。店のメニューが「検眼表」になっていて、お客はスプーンを目に当て、“ペスカトーレ”や“カルボナーラ”を読んでいたのですね。パスタを食べて視力もわかるという素晴らしい店でした。
さて、僕もスパゲティについてくるスプーンはご免こうむりたいほうです。なぜなら、スプーンに麵を集めてフォークで回すと、「きこきこ、いやな音がするのではないか」そういう恐怖感があるわけです。
それに長年フォーク一本で喫茶店の、うどん状スパゲティを退治してきた身としては、スプーンなんかが置かれると、「きみはカレー一族の人間じゃなかったのか」と言いたくなったりします。
同じことは、ラーメン
「こんなところで仕事もせずに湯につかって。チャーハンの面倒はちゃんと見ているのか」といらぬ説教をしてしまう。この感じというのはつまり、スプーンが本来の職場であるカレー皿やチャーハン皿を離れて、“サボリにきている”と見るところに起因します。ワーカホリック(仕事中毒)的対応を、無機物に対してまで取ってしまうのですね。笑って許してあげましょう。
ついでですが、スパゲティは家で自分でゆでて「はし」で食べるのが正解です。ずるずる音をたててすすっていると、反社会的でワイルドな気分になりますよ。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
ボクが大学生の時。スパゲッティ専門店ができ始めてやはりスプーン談義が起こった。「大体、本場のイタリアはスプーンなんて出てこない、日本独特のモンだから使わなくたって一向に構わない。逆にカッコいい」って話があった。明太子の和風のスパゲッティも箸で食べるのがおしゃれな人の食べ方だった。それを信じて広島から出てきたばかりのボクはカッコいい大学生を演じていたが、社会人になってイタリアに行き有名なレストランでスパゲッティを食べたらスプーンが出てきてたまげた思い出。