相談3

新米専業主婦の母はセールスに弱い

 実家の母(五十九歳)は今年退職するまで外に出て働いていたので、六十歳目前にして初めての専業主婦。先日、実家に行ったらピカピカのコードレスホンがあったので、「どうしたの」と聞いたら、うれしそうに言うのです。「若いセールスマンが夜七時ごろ来て、かわいそうだから買ったの。ついでに夕食もごちそうしちゃった」。この調子でいくと、セールスマンのブラックリスト(?)に載るのではないかと心配です。

(尾張旭市・母おもい・32歳)

らもさんの回答

 僕はどちらかというと営業マンやセールスマンに親近感をまだ抱いているほうです。自分が十年以上営業マンで、飛び込み営業もけっこうやったせいでしょう。口惜しい思いをしたことはいっぱいありますが、この世界、上を見たらきりがありません。

 僕の先輩は、「○○社の××と申します」と名刺を出したところ、受け取った相手が目の前でそれを破ってくずかごに捨てたそうです。某建売住宅の販売営業マンの人はもっとすごい。この人は、あるうどん屋さんに目をつけて「お百度」を踏んだところ、しつこ過ぎたのでしょう、ある日、うどん屋の主人に店先で「湯をかけられた」といいます。

 もちろん、ひどい目に遭う人ばっかりなわけではありません。知人に通称「仏のチバちゃん」という人がおります。この人は仏教系の大学を出たせいではないでしょうが、その/ さがまことに温和で怒ったことなど一度もない。彼は食品のセールスをしていましたが、会社に帰って一息ついていると上司が、「おい、チバちゃん。この伝票、どういうことだ」「はい、何か」「この値で売っちゃ仕入れのほうが高いぞ」「はあ。先方がぜひにとおっしゃるもんですから……喜んでらっしゃいましたよ」こういう人とか、お母さんみたいな人ばかりなら世の中、和気あいあいなんですが。ひとつ表札の横に「訪販員研究委員会」の札を張っとくとどうでしょう。これはセールスマンにはとても気味が悪いですよ。

中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん

神足裕司さんより

我が家では高齢な義父母にはインターフォンも電話も出なくていいと言っている。何のためにあるのかよくわからない。そう言っているのに、義父母もつい最近まで会社をやっていたのでかかってきた電話を無碍に切ることができないらしい。それに輪をかけて孫が営業をしている姿を想像したら可哀想で相手ぐらいしてあげたくなるという。相手をして買わないことができるんなら(詐欺に遭わなければ)いいけどっていつも心配している。