相談2

不快指数感じぬ残りの%はどんな人?

 実は私、何年も気になっていることがあるんです。それは梅雨どきの天気予報などで使われる「不快指数」のパーセンテージです。以前テレビで見た解説によると、「今日のこの数字は十人中九人が不快に感じる数字です」と言ってました。では、いったい残りの一人は「どんな人」なのでしょう。ちなみに私のまわりにいる人は不快指数が低くても「だるい」「しんどい」と連発する人ばかりです。

(橋本市・ざしきわらしはどんな人・31歳)

らもさんの回答

 十人中九人が不快なのにそれを感じない残りの一人とはどんな人か。

 まず第一に僕が思い浮かべたのは、「よくできた人」です。世の荒波にもまれ続けるうちについに「心頭滅却すれば火もまた涼し」という、禅僧のような悟りを開いたのですね。

 梅雨の雨が降り続けば「ああ、農家の皆さんが喜んだはるやろうなあ」と考え、熱帯夜が続けば「こら、ただで東南アジア旅行にきたようなもんや」と喜びます。町内では「仏の○○さん」と呼ばれて、勘違いしたお婆さんが花を供えにくるほどです。

 しかし、こういう尊い人物がそうたくさんいるとは考えにくい。

 二番目に考えられるのは「外国人」ですね。日本より高温多湿な国はアジアにもありますから、そんな国の人なら日本の梅雨を待ちこがれているかもしれません。他の季節は週に一回夢の島にある「熱帯植物園」に行って憂さを晴らすのです。

 三番目に考えられるのは、「不快なやつ」です。ラッシュ時などで必ず出会うのがこの「不快おじさん」です。不快おじさんは中年で小太り、ややさびしくなった頭を二分八にぴちっと分けています。このポマードがまずくさいのです。

 ラッシュですからこの不快おじさんと正面向きになって、二十センチくらいまで顔が近づいたりします。そこで気づくのですが、不快おじさんは昨日ニンニクを食べたのですね。しかも大酒も飲んだらしい。熟柿じゅくしのようなにおいとニンニクの発酵臭がまじって地獄のような臭いです。不快おじさんの鼻からは鼻毛がはみ出し、肩には大つぶのフケが。

 こういう「不快な奴」は、存在そのものが不快なのだから環境も不快を好むのではないかと僕は考えますが、どんなもんでしょうか。

中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん

清水ミチコさんより

まるで人を試すかのような難問に、3タイプで答えたのが素晴らしい。よくできた人、外国人、不快な奴。細かな質問に対して、最後に不快な人の鈍感さを表現して返した答え方が、オチをつけたみたいで痛快です。らもさんと会うと、いつも二日酔いで、好きな酒を好きなだけ呑み、と幸せそうでした。悲惨な感じがしないんですね。このコーナーはシラフで書いてたのか、それとも酔っぱらいながら書いてたのか、知りたくなります。