相談3

歩いているとなぜか人にしかられる

 私はなぜか、歩いていると、道行く人にしかられます。歩道橋の上をふらふら歩いていたら、サングラスのおにいさんに、「しっかり歩け!」とどなられ、冬の日にアイスクリームを食べながらバスを待っていたら、降りてきたおじさんに、「この寒いのにアイスクリームなど食うな!」としかられ、続いて降りてきたサラリーマンに、「ほんまや!」としかられました。通学途中には青いキャップをかぶったおっさんが毎日のように殴りかかってくるのでこわくてたまりません。

(徳島市・もっとしかって・18歳)

らもさんの回答

 他のことはまあよいとして、その「毎日のように殴りかかってくる青いキャップのおっさん」という人物はいったい何なのでしょうか。そんなタイガー・ジェット・シンみたいなおじさんをすて置いてよいものなのでしょうか。

 ところで、歩いていてよくしかられる、とのことですが、いくつかの可能性が考えられます。ひとつは、あなたが非常にキュートでセクシーな女の子である、という場合です。小学生のころを思い出すとわかりますが、男子はかわいい女の子に対しては異常にしつこく意地悪をしかけるものです。気をひきたい思いが屈折してそうした言動になるのです。「私は、チャーミングだからしかられるんだわ」と考えれば腹も立たないでしょう。

 第二の可能性として、あなたは「しかりやすい顔」の持ち主である、ことが考えられます。

 若いころ、友人に「受難のサカグチ」と呼ばれた男がおりまして、なにかというと人からしかられる。ある日などは、普通に道を歩いていると、いきなり「ヤ」のつく職業の人に呼びとめられました。「ワシはいま、ムシャクシャしとる。お前の顔見たら殴りたくなってきたから一発だけ殴らせろ」と言われて、アッパーカットをもらいました。

 この手の人は、八の字まゆで変におどおどしているか、逆にへらへら笑っているか、という特徴があります。まず、この態度からなおしましょう。

 加えて、「地方都市の特性」があります。いい意味でも悪い意味でも、他人のことに干渉するのは地方都市の特徴です。この前、東京から大阪に来たある人が、立ち食いそばで唐辛子をたくさんふりかけていたら、隣のおじさんに、「おっ、兄ちゃん“激辛”やの」と言われて面くらったそうです。どうしても干渉されるのがいやなら、上京するしかありません。

中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん

清水ミチコさんより

面白い人物の周りには、面白い人間が集まるのか、この「明るい悩み相談室」の投稿もかなり面白い中身が多いです。人の悩みなのに、読んでるだけでつい笑ってしまう。歩いているとなぜか人に叱られる、なんて話は聞いた事ありませんが、友人の「受難のサカグチ」さんのたとえ話も凄く気の毒で、ものすごく可笑しい。笑ってるうちに地方都市の特性の話に深くうなずかされ、読むうちに心がスッキリするのは、らもさんの手腕と、視線の優しさによるものでしょうか。