拾った物しか大事にしない父
私の父はなぜか拾ってきた物を使うのが大好きです。ゴミ捨て場などで使えそうな物を拾ってきては、それをうれしそうに使うのです。これは一見、物を大事にする尊い性格のように思えるでしょうが、私が我慢できないのは、父が大事にするのは「拾ってきた物」だけだという点です。父が使わなくなった物をゴミ捨て場に持っていくと、次の日には父が拾ってきて(今までは全然使わなかったのに)嬉々としてそれを使い出します。この変な癖をなおす方法を。
(尼崎市・こうこ娘・20歳)
これを読んでいて、昔、テレビ用に書いたギャグを思い出してしまいました。
果物屋の店先に、パジャマ姿で大きな果物カゴをかかえた男が現れます。
「あのー、すいません」
「へい、いらっしゃい」
「実は向かいの病院に入院してるものなんですが、お見舞の果物が余ってしかたがないんです。この果物、下取りしてもらえませんか」
「あ、こりゃ、今日ウチで売ったヤツだな。いいでしょ。お困りなら引き取りますが、三千円でいいですかな」
「お願いします」
果物屋は店先でカゴを引き取ると、店頭にそれを飾り、『四千五百円』の値札をつけます。それをジッと見ていた男、その四千五百円のカゴを指さして、
「これ、くださいっ!!」
「……え? だって、それ、今アンタが……」
「……。だって果物、好きなんだもーん!」
変テコリンなギャグですが、何となくお父さんの行動に似ていますね。お父さんの場合、「捨ててある」→「まだ使える」→「拾った」→「得をした」→「かわいいヤツ」というパターンなのでしょう。でも新品好きでいらない物をバンバン買われるよりマシでしょう。
失礼なこと言いますが、あなたとお母さんも一度ゴミ捨て場で待機していて、お父さんに運び帰ってもらいましょう。きっと以降はメチャクチャに大事にしてもらえますよ。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
この父をチチにそっくり入れ替えても差し支えないほど気持ちが分かります。もう30年以上前にらもさんとテレビのロケで大阪の福島を歩いている時、ゴミ箱の上に捨ててあったギターを持ち帰り、そのギターで今まで何百曲も作曲してきました。捨てられたギターはゴミの車に飲み込まれてバラバラにされる寸前に僕に救出されたのです。これは奇跡的出会いであり壮大な愛情物語なのです。高いお金を出して手に入れるというようなありきたりのことではないのです。大事にするのは当たり前でしょ。