相談2

「左折は左遷」と右折しかしない父

 前から不思議に思っていたのですが、うちのオヤジは朝の通勤に、クルマでわざわざかなりの遠回りをしています。こないだ一緒に飲んだときにしつこく聞いたら、しぶしぶ答えました。朝、家を出て道路を左折すると「左遷」につながるようで気分がよくない。ついつい右折の道路を選んで会社まで行くのだそうです。こんな不経済は許せないと思います。右は正、左は邪、という誤った概念をオヤジに捨てさせるにはどうしたらいいでしょうか。

(愛知・ガンコオヤジと同居のムスコ)

らもさんの回答

「左遷」という言葉は中国から来ています。中国では昔、右を尊び左を卑しいものとみなす習慣があったそうです。そのために、地位や身分を下げることを左遷と言ったのです。

 お父さんが中国の人なら別ですが、日本にいて右を好んで左を避けてもあまり意味はないのではないでしょうか。なにしろ、この言葉の発生の地である中国自体が、国をあげて「左」側の存在になっているわけですから。

 ついでに言うと、この右翼・左翼という言葉はフランスが発生の地です。フランス革命の後、議会で、保守派は右側に陣取り、急進派は左側の席にすわりました。ここから右翼・左翼の言葉ができたそうです。しかし、だからといって共産党の党首が車で左折ばっかりしているという話はあまり聞きません。

 右、左で言えば、インド人は右手で食事をし、左は不浄の手として絶対に使いません。しかし、かといってラビ・シャンカールがシタールをひくときに左手は一切使わないかというとそんなことはない。もう神技のように左手の指を使いまくっています。

 せっかく右左が平等に見られる日本に生まれたのに、げんをかついで左を避けるというのは損な話です。そもそも、それほど左を避けるのなら、お父さんが車に乗っていること自体がおかしいのです。日本では車は道の左側を走るきまりになっているのですから。それともお父さんはいつもアクション映画のカーチェイスばりに、右側の対向車線を走っておられるのでしょうか。あるいは、山手線や環状線に乗るとき、左回りなら一駅のところでも右回りに乗っていかれるのでしょうか。そういうことをいちいち追及していって、反省をうながすといいでしょう。

中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん

チチ松村さんより

これは多分オヤジさんの言い訳だと思います。僕の相方ゴンザレス三上さんもトイレから出たら右にしか曲がりません。ある大きなレコーディングスタジオで、三上さんが一人でトイレに行き長い間戻って来ませんでした。やっと帰って来た三上さんが言うには、スタジオに戻ると知らないスタッフがいるので心を落ち着かせるため自分でコーヒーを入れて飲みしばらく寛いでいたそうです。ふと録音ブースの中を覗いたら歌う伍代夏子さんが見えたので、スタジオを間違えたと気づき何事もなかったようにして出て来たとのことでした。三上さんが何故右に曲がるのかは未だに謎ですが、単なる習性だとしか思えません。