「コンダーラ」と思い込んだ娘
教えてください。グラウンドやテニスコートの整備に使うコンクリート製のゴロゴロ引っぱる道具。あれは何というものですか。私は「ローラー」だと思っていましたが、高一の娘は「コンダーラ」と呼ぶのが正しいのだと言います。そして、ちゃんと証拠があると言い張るのです。「巨人の星」の夕イトル部分で星飛雄馬親子があれを引っぱっています。そこへ主題歌がかぶさって「♪重いコンダーラ……」となるので、それが証拠だそうです。ほんとは何というのでしょうか。
(千葉・I・M)
人が一生のうちにかく恥のうちで一番多いのは「無知」による恥です。そしてその次にくるのが「覚え違い、聞き違い」が引き起こす恥です。早めにその誤解がとけるチャンスがくればよいのですが、いい年になってから真相を知って
こういうことを聞かされると、おじいちゃんも「ああ知らなかった。これまでの私の一生は何だったんだろう」と考え、死にきれなくて盛り返す、ということもあり得ます。
例を挙げだすときりがないのですが、最近の歌では「矢切りの渡し」を「夜霧の私」だと思っていた人はけっこういます。カラオケの本を見て初めて愕然とするわけです。
ずいぶん前の清水健太郎のヒット曲「失恋レストラン」の中に、「愛がこわした君の心を」というフレーズがありましたが、あるお母さんはこれをずっと「ありがとうおわした」だと思って、失恋レストランのマスターが帰るお客にお愛想を言ってるんだ、と信じていたそうです。
僕のコピーライター仲間でも、「岡本太郎の“芸術は場数だ”というのはすごいコピーだな」と本気で感心していたやつがいました。“思い込んだら”恥多し、ですが、そういう抜けたところがあってこそ人に好かれるのです。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
今や「言いまつがい」とジャンル立てされている程、定番の無知や思い込みからくる言葉の失敗譚ですが、私の近辺の名作を申し上げておくと、芸人仲間のSくんと居酒屋へ行った際、メニューをしばし眺めて「なすのみそかずゆき」と注文しました。それが「茄子の味噌和え」と判別するまで数秒の時間を要しましたが、彼が生涯、この言い間違いを語り継がれる運命を決定づけた瞬間でもありました。むしろ、長い人生に於いて、このレベルの名作は自前で2~3は生み出しておきたいと思います。