相談1

「来世はミジンコ」と願う息子が残念

 わが家の小六の息子は「今度生まれ変わるときにはミジンコになりたい」という。理由を聞いたら、「学校も宿題もないから」という。「魚にすぐ食われてしまうんだぞ」とおどしても、「食われないようにじっと岩陰でかくれている」。せっかく人間の子に生まれたのに、「ミジンコ」になりたいという気持ちが親として残念でならない。なんとか気持ちを変えさせられないものでしょうか。

(千葉市・会社員・52歳)

らもさんの回答

 以前、将来なりたい職業をきかれて、「ワニ」と答えた女の子の例を紹介しました。僕は大笑いしたんですが、今回はミジンコですか。僕の場合は、来世生まれるとしたら、断然「ネコ」ですね。それも野良はいやで、飼い猫にとどめをさします。

 というのは、今四匹の猫を飼っていますが、こいつらが「つらそうな顔」をしているのを見たことがない。エサをねだるときにも甘え声を出すだけですし、そもそも一日中眠っています。この寝ているときの顔が実に気持ちよさそうで、こいつらの顔を見ていて僕はヨメさんに言ってしまいました。
「みてみろ、この寝顔を。これが、人間の生き方。ってもんだ」

 ヨメさんは少し考えたあと、
「んー。それは“猫の生き方”なんであって、“人間の生き方”とは違うと思う」

 身もフタもないとはこのことで、僕はギャフンとなりました。

 しかし、ミジンコだとか、オキアミになりたいというのは、考えつかなかったですねえ。ミジンコ人生、どんな感じでしょう。辞書をひくと、「ミジンコ──水中を浮遊する小さな生き物。魚のエサ」となっています。やはり魚に食われるのが宿命の生物のようです。

 いっそのこと、家に水槽を一台買って、ミジンコの生態を観察させるというのはどうでしょうか。もちろん、ミジンコを主食とする魚も入れておきます。

 それを顕微鏡で観察させるのですね。ミジンコの量は減っていき、魚は元気そうです。これを見て息子さんがなおも来世ミジンコになりたいと訴えるかどうかです。訴えるようなら、思い切ってミジンコ人生を歩ませてやってください。

中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん

手塚眞さんより

「猫になりたい」と言ったらもさんにいたく共感します。ぼくもかつて野良猫を観察して、このように生きたいと学びました。猫は一日中だらっと寝ていても、必要なときにはシュバッと俊敏に動ける。そんなふうに生きられたら無闇に疲れずに済むなと思います。ところでこの少年には手塚治虫の『火の鳥 未来編』を読ませるのが良いと思います。正に主人公がミジンコに生まれ変わるつらい話が出てきますから。