相談3

世界中が吸血鬼に……さて誰の血吸う?

 キングの『呪われた町』やマキャモンの『奴らは渇いている』などを読んでいて、いつも不思議に思うのです。もし、やつらのたくらみが成功して世界中が吸血鬼になったら、彼らの食料(血液)はいったいどこから調達するのでしょうか。食用人間の養殖や血液バンクの計画があるといった話も間きません。バンパイヤのサバイバルは可能なのでしょうか。また、イスラム圏のバンパイヤにも十字架は有効なのでしょうか。気になって仕方ありません。

(宝塚市・悩めるファン・28歳)

らもさんの回答

 SFで「最後のモンスター」という作品があります。人類のほとんどが吸血鬼になってしまって、唯一の生き残りである主人公は、毎日昼の間にビルからビルを踏査して「吸血鬼狩り」に明け暮れています。ところが吸血鬼というのは実は細菌の突然変異による伝染病だったのです。免疫薬などを開発した吸血人類は、横の連絡をとり合って、一度は壊滅した文明を徐々に復興させていきます。主人公は最後に捕らえられて処刑されるのですが、人々の彼を見る目は恐怖に満ちています。つまり、この新文明の中にあって、主人公はただ一人生き残った「古代の妖怪」になっていたわけです。

 ところで、吸血鬼を「伝染病の一種」として考えた場合、最後の一人までがこれにかかって死ぬということはありえないのではないでしょうか。ペストやコレラなどの伝染病の歴史を見てもわかります。かかる人間がいなくなるということは、病原菌の種そのものが絶えることをも意味しています。その辺を菌が「考えている」のかどうかは知りませんが、最大の流行でも伝染の率は三人に一人といったところだと思います。

 かりに、それでも全員が吸血病にかかってしまった場合、血液はどうするのか。これは希望的観測ですが、吸血人類はバイオテクノロジーに命運をたくすのではないでしょうか。

 以前にバイオ増殖によるチョウセンニンジンの写真を見て驚いたことがあります。ニンジンの細胞だけを増殖するので、形のないブヨブヨの流動体です。このエキスを抽出するので、チョウセンニンジンの生薬は安く多量に供給できているようです。将来は血液でも可能かもしれません。イスラム圏うんぬんについては、僕の作品に「吸血鬼になったギョウザ屋の悲劇」というのがあるのでご参照ください。

中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん

手塚眞さんより

ここで紹介されている小説はリチャード・マシスンの『地球最後の男』(旧題『吸血鬼』)ですね。2度も映画化されています。抵抗する少数は多数から見れば「脅威」になるという社会的アイロニー。そして吸血鬼をウィルス伝染病になぞらえるのは正しい見解です。『ドラキュラ』の物語の背景にもペストの脅威があったのですから。ところで、もし全員が吸血鬼になったら……もちろんお互いの血を吸い合って、愛を確かめるのですよ。