相談1

まさに奇人!裸で料理する夫

 何事によらず、束縛されることの嫌いなうちの主人。家に帰るなり「衣服は束縛だ!!」と叫んで、まっ裸になってしまいます。家にいるときはいつも全裸です。まめな人で、時々野菜いためを作ってくれるのですが、裸にエプロンだけをつけた後ろ姿を見ると笑ってしまいます。何とか服を着せたいのですが。

(京都市・見飽きた妻)

らもさんの回答

 奇癖です。まさに奇人です。あいた口がふさがりません。答えたくありません。かかわりあいになりたくありません。しかし、こういう例も、広い世間のことですから、他にないこともないのです。以前に人づてに聞いた話ですが、家にいるときは夫婦そろって全裸で暮らしているカップルが実在するそうです。どうしてそういう不気味なことをするかというと、夫婦の間で隠しごとをするのはよくないからだそうです。

 この夫婦にしろ、あなたのご主人にしろ、まず僕が腹立たしく思うのは、とってつけたような理屈をこねる点です。「隠しごと」がよくないからといって、何もまっ裸になる必要はないではありませんか。昔から「隠し所」という言葉があるように、そういうナニは隠すべきものと決まっているのです。

 想像していただきたい。ちゃぶ台を囲んでまっ裸の夫婦がお茶漬けを食べているところを……。お茶漬けというのは、そんな格好で食べてはいかんのです。昔から決まっているのです。昔から決まっていることには必ず理由があるのです。お茶漬けがまずくなるからです。

 あなたのご主人の場合も「衣服は束縛だ」という理屈をつけていますが、これは単なる名分であって、「露出狂」である恐れが多分にあります。だいたい、まっ裸にエプロンだけつけたような人間の作る野菜いため喜んで食べている、あなた自身にも問題があります。僕ならそんなもの食べません。とりあえず、イチジクの葉をお送りしておきます。

中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん

山内圭哉さんより

「まさに奇人です。あいた口がふさがりません」て、らもさん。あなたよくそんなこと仰りますね。

 芝居の本番中、舞台袖で全裸で仁王立ちして、今まさに舞台上で演じている劇団員を笑わそうとしてはりましたやんか。僕、あなたに命令されて、ペンライトであなたの局部照らしてましたやんか。そんなお人が「奇癖です。まさに奇人」なんてよく言えますね。四六時中一緒にいた劇団時代、幾度となくあなたの全裸を見てますよ、僕は。

 あ、そうか。自分と同じような奇癖の人と出くわし、照れ隠しで奇人扱いされたのですね。ふふ、シャイなお方。