大の字で寝る力士は弱い?
先日の「じゃがいもの焼いたものにミソをつけて食べると死ぬ」という迷信の話を読み、ペンをとりました。私はかねてより迷信と呼ばれてさげすまれているものの中には、必ず一片の真実が含まれていると確信するものです。ただ、中には当方の浅学ゆえ、どうしてもわけのわからない
(彦根市・ことわざ男・58歳)
「みそじゃがいも」の件では、新聞社のほうに何十本というお電話や、おはがきが来たそうで、かなりの物議をかもしたみたいです。
中には「私はここ何十年、じゃがいもの焼いたものにミソをつけて食べるのを好物としてきました。私は死ぬのでしょうか」といった『切実な』問い合わせもあったようです。
もう一度だけ同じことを答えておきますが、じゃがいもの焼いたのにミソをつけて食べると人間は確実に死にます。ただし何十年後に死ぬかというのは個人差があるようです。百年後かもしれません。
現に先日も千葉の高校生の男女が成さぬ恋を苦に心中しようとして、じゃがいもの焼いたのにミソをつけて前に置き、
「覚悟はいいね?」
「うん」
「じゃ君から」
「いいえ、あなたから」
と、じゃがいもの押しつけ合いをしているところを、生活指導の先生にみつかって補導されたという事件がありましたね。
確かに迷信にはバカにできない真実が含まれています。「大の字になって寝るスモウ取りは弱い」というのもほんとうです。
強いスモウ取りというのは寝ているときも、必ずソンキョの構えをとって眠るものだからです。嘘だと思ったら小錦にたずねてみてください。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
「焼いたじゃがいもに味噌をつけて食べると死ぬと聞いたが本当ですか?」という質問に「本当です」と答えたことにより連載中最大の騒動になったことは劇団時代に僕も聞いていました。にも関わらず、再度「確実に死にます」と答えるらもさん。
らもさんはよく「物事はややこしくなる方に持っていけ」と仰ってました。しかし、ただややこしくするわけではなく「何十年後に死ぬかというのは個人差があるようです。百年後かも知れません」と、つまり「焼いたじゃがいもに味噌つけて食おうが食おまいが我々は死ぬのだ。だから死ぬまではなるべく楽しく生きようよ」という、らもさん流の人生応援ソングならぬ、人生応援回答なのだと思います。