相談3

ミノムシの着替えに凝る父の妙な癖

 父は庭でミノムシを見つけると、ミノをむいてしまって中の虫をビンに入れてしまいます。そのビンの中にカラフルな端ぎれを入れると、ミノムシはその布でミノを作ります。そのミノムシを庭に放して、「今、ミノムシがどこにいるか一目瞭然だ。いや、風流風流」といって喜んでいるのです。今では庭中の木という木に、チェック、水玉、シマのミノムシがぶらさがり、実に不気味な光景です。こんな父につける薬はないのでしょうか。

(町田市・唯野息子・20歳)

らもさんの回答

 お父さんは、生態系を破壊していますね。ミノムシが枯れ葉のミノを作るのは、自分を目立たせないための護身術です。それをわざわざチェックのミノで目立たせたのでは、鳥に向かって、“私を食べて下さい”と言っているようなものです。お父さんのような人が増えると(増えないと思いますが)、エコロジーの重大な問題が起こるおそれがあります。

 さらに加えて言えば、お父さんの「いや、風流風流」にも納得がいきません。「風流」というものは、自然と反自然、その虚実の皮膜の間をたゆたうものであって、決してチェックのミノムシのような人為的作品の中にあるものではないと思うのです。

 さらに、心理学的にも問題があります。風流にかこつけて、実は“エッチな気分”を楽しんでいるのではないか。お父さんは、庭でミノムシを見つけると、まずこう考えます。

「おうおう、若いくせにそんな地味なかっこうして。おっちゃんの言うこと聞いたらなんぼでもぜいたくさせるのに。マンション買うたろか。毛皮か。ダイヤか。え?」

 そう言って自らの魔手の中にミノムシを籠絡したお父さんは、部屋で、おびえるミノムシを全裸にしてしまうわけです。そしてかわりに派手な衣服を与える。いわばこれは渋めのセンスで決めている女性に、七色のムウムウや極彩色のパッチ、金色のスゲガサなどを与えて、「これでカラーコーディネートせえ」と言ってるのと同じ行為です。お父さんはそれで、「ふふ。これでワシ好みのミノムシになった」と喜んでいるわけです。こういう中年的趣味は即時やめさせるべきです。

 そんなおもしろいことを楽しむのは、僕一人でいいのです。明日からさっそくやってみようと思っています。

中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん

いしいしんじさんより

きっとらもさんは、「うーん、これ、相当きれいやろな」と感じいった。「それに、ちょっとエロいな」と。この質問自体を、いとおしげに、てのひらにのせて撫でている気配がある。

 らもさん自身、相手からの質問を裸にし、その芯に、手練れたことばの数々をていねいに貼っていき、一種の「生きた工芸品」にしあげる名工にちがいない。そうして、最後の一文ですべての衣をひっくり返し、読者をも裸にしたまま自分はさっさと行ってしまう。なんとエッチな名工だ。