上等なのりの缶、
丸いのはなぜ?
どうして贈り物でいただく上等なのりの缶は丸いのでしょう。中に入っているのりは四角いし、出すときにむずかしくて必ず四すみのどこかがちぎれてしまいます。私はそれがとても悲しい。かつおぶしパックの缶とか安物ののりのパッケージは四角いのに、どうして上等なのりの缶は丸いのか―。このことを考えると夜もぐっすり眠れますが、どうぞ納得のいく、よいお答えをくださいませ。
(兵庫・のりこ・20歳)
まず図を見てください。
計算上便利なように、のり一枚の寸法を一○センチ×一〇センチだとします。これがぴったりはいるような四角い缶を考える場合、高さは別にして、上から見たところが一○センチ×一○センチの缶ならムダなくおさまります。この缶の底部面積は百平方センチです。
ところで、これと底部の面積がほぼ同じの丸い缶をつくるとします。半径が五・六四センチの円なら面積が約百平方センチになります。ここにのりを先端部が重ならないように巻きながら入れていく場合、中心部から半径一・五九センチの同心円の中にはもうのりを入れることができません。直径三・一八×円周率三・一四=九・九八で、約一〇センチ。これでのりの長さいっぱいいっぱいだからです。
つまり、四角い缶ならぴったりおさまるものでも、丸い缶に入れると中心部に直径約三センチのムダな空洞を作らざるを得なくなるのです。どんなに良心的に詰めても丸い缶だと四角い缶より枚数は少なくなります。このあたりに丸い缶がもてはやされるカギがあるのではないかと僕はにらんでいるのです。
しかし、四角いパッケージののりが安ものだという意見には反対で、もっともっと安ものののりになると、よく駄菓子屋でキャンデーが入っているような、ああいう広口の瓶になります。あの手の瓶の場合、のりは四周のガラス壁に二重もしくは一重にはりついているだけで、中心部には堂々たる空洞がぽっかりあいています。
あの空洞はあんまりじゃないかと思うのですが、お店のおばちゃんの意見によると「かわいいのりにせま苦しい思いさせとうない」からなんだそうです。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
この相談に関しては、らもさんの解答より相談者の方に拍手を送る。確かに上等なのりは丸い缶に入っている。おかずとしてののりは安いのを買うが、酒のつまみとしてののりは高いのを丸い缶に入っている方を買う。丸い方が、それもペコペコのプラスチックのやつより金属の缶の方が上等だと思い込んでいた。四角いのりをわざわざ丸い缶に入れる。この無駄が価値を高めるのだろうか。そうか、無駄な物は高いのだ。