娘に脅迫状送る
おチャメな母
母は脅迫魔です。私の部屋が散らかっていると、「部屋をかたづけろ……さもないとお前の小づかいはないと思え」などと脅迫状をよこすのです(切手まで貼って)。この間は私が保険証を使って戻すのを忘れていたら「お前のスヌーピーを誘拐した。粗大ゴミの日までに保険証を返さないとヤツの命はないぞ。歯が痛いのにバカ」とこうなんです。「こんな非行を重ねていると新聞ネタになるよ」と言ってやりましたが平気です。新聞ネタにしてください。
(神戸市・母をもてあます娘・16歳)
似たようなはがきがもう一通きてます。
「私の母はトイレが長いといつもドアの前にやってきて、『君は完全に包囲されている。恥ずかしがらずに出てくるんだ』とドアをノックし、私が出るまでやめません。別に母はトイレに入りたいわけではないのです。このままでは出るものも出なくなります。(豊中市・母親似の娘・19歳)
おチャメなお母さんと娘がこうして楽しげに遊んでいる構図というのはうらやましい限りです。ただ、こういう楽しげなだけの家族の肖像というのはいまひとつ深みに欠けるところがあります。
ここはひとつメリハリをつける意味でも「冗談のわからないお父さん」の登場を待ちたいところです。年のころなら五十一、二。総務畑ひとすじ、管理職。頭部九・一分け。愛読書「プレジデント」「壮快」。このお父さんが、お母さんの書いた脅迫状を手にワナワナとふるえつつ、「何だっ、母さん、このフザけた文面はっ!こんな子供じみたことをして面白いか。○○子も○○子だ。言われる前になぜ部屋をかたづけておかん。二人とも自覚を持て、自覚を」。
一瞬にしてシンとなる家の中の空気。
そして次の日、お父さんが会社で弁当をあけると、ご飯の上にノリで「ごめんねパパ」と書いてあります。お父さんは上司や部下にそれを見られてまっ赤になる。こういう応酬があってこそ深みのある家庭といえるのです。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
らもさんと出会った頃の私は、友達とルームシェアをしながら、下北沢界隈をフラフラしていたけれど、今じゃ二児の母。この、お悩み相談を見ると、こんな母としてのおチャメさが欲しい!と思わせてくれます。それに加えて、まさかのらもさんまで、この相談に触発されて「はなし」の続きを書かれてる。ってこれ、お悩み相談なのに、らもさんのおチャメ返しにあってしまいましたね。やっぱりおチャメは愛嬌。母として、人間として未熟な私もおチャメに転換する努力をしたく思います。