相談2

卵うどんと卵入りかけの差額に疑問

 ある日、うどん屋へ入り、メニューを見ていると「かけうどん三百円」「卵うどん三百八十円」と書いてあり、その下に「各卵入りは五十円増」とありました。この場合、店の人に「かけうどん一つ。あっ、卵入りでお願いします」とたのむと三百五十円ですむのでしょうか?それとも、こんなことを考える私はただのケチなのでしょうか。

(石川・けちんぼの音楽教師・27歳)

らもさんの回答

 ケチなんかではありません。こういう理不尽を見のがしていくことが積もり積もってファシズムやアパルトヘイトや戦争につながっていくのです。

 たとえば僕の知っている所に、立ち食いそば屋が二軒並んでいるところがあります。かけそばの値がA店は百四十円、B店は百五十円です。この十円の差というのはいったい何なのか。何度か食べ比べて、僕はついに真相を発見しました。百五十円の店のほうが「味の素をたくさん使っている」のです。それを知って得心がいったのですが、そのうちにどうしても納得のいかない事態が起こってきた。安い方のA店は、味の素は少ないのですが、客が自分で天かす(揚げ玉)を入れ放題という利点がありました。ところがある日、A店に行ってみると、大きな張り紙がしてあって、「店主敬白 当店ではこのたび、お客様のコレステロール値などの健康面を考え、天かすは調理師が入れることになりました」。

 こういうとき、我々は怒らねばならないのです。どこの世界に天かすの食べ過ぎで病気になる人間がいるのですか。それなら天どんなんか食べたら即死です。天かすがもったいないならもったいないと正直に言えばいいのです。世の中の理不尽を黙認してはいけません。僕の仕事場の近所に、非常に高名なそば屋があるのですが、ここの名物は「せいろそば」です。普通の一斤の盛りなら四百五十円、一斤半だと六百円です。僕はそば好きなので二斤盛りをたのむと、なぜか二枚分の九百円をとられました。そういうシステムなのだそうです。「決まり」だと言われると引っ込まざるを得ませんが、やはり何度考えてもおかしい。あなたも徹底的に究明すべきです。「卵うどん〈引く〉かけうどん〈引く〉卵=かまぼこ+ノリ」みたいな結果が出て得心がいくかもしれません。

中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん

藤谷文子さんより

この相談に対してのらもさんは、コミカルなトーンで、楽しく返答されていながらも、「こういうとき、我々は怒らねばならないのです」と、何とも神髄では、壮大な話になっていると思えて仕方がありません。卵ありか、なしかが、今後の我々の生活を大きく変えるかもしれないという話になっちゃってますが、私の知っているらもさんは、確かにそういう人です。面白おかしく無茶苦茶なことをこよなく愛し、弱い者に優しいけれども、世の中の理不尽や、力のある存在には問題定義を投げかけ、怒る。もしかしたら、今の我々が、直面している問題かもしれませんね。