家づくりの基本は
お棺の出しやすさ
私は、よその家を見るたび“この家はかんおけが出やすいかどうか”を考え、今後の家づくりの参考にしています。石積みの高い階段のある家などは、階段からかんおけが落ちたら……。石積みの家はやめよう。家のとびらは、かんおけが出るときはだれかが押さえているのかな……。飛び石ですべったら……。曲がりくねったアプローチはかんおけが出にくそうだとか。こんなことを家づくりの参考にする私はおかしいのではないか、と考えてしまいます。
(兵庫・かんおけオバサン・37歳)
そういえば、僕も何年か建売住宅の広告を担当しましたが、「家族のコミュニケーションをコンセプトにした“触れ合い設計”」みたいな家はたくさんあっても、「出棺用らくらくスロープ付き」なんていう家はありませんでした。お墓の宣伝や生命保険の広告もしましたが、ここでも「死ぬ」とか「お棺」だとかの単語は禁句でした。
しかし、エジプトのクフ王のように「死後の家」まで建てるほどの財力があれば別ですが、そうでない限りは家を建てるときに「死」ということも含めての設計をするのは正しいと思います。
たとえば、財力に限りがあって、核シェルターつきの家かお墓つきの家か、どちらかを選べ、と言われたら僕はお墓つきの家を選びます。なぜなら、たとえば僕が友人の家に遊びに行ったとしますね。お酒でもごちそうになって、酔った勢いでその友人が、「実はね、この家にはね、地下にシェルターがあるんだよ」ともらしてしまったとします。その瞬間に、僕とその友人の間には、目に見えない幕がスッとひかれるのです。
家にシェルターがあるということは「何かあったら、ワシら家族だけは生き残るもんね。お前はただの友人だから入れてやらないもんね。ワシらだけ、家族だけだもんね」と言っているのと同じだからです。当然といえば当然なのですが、シェルター作ったんなら、黙っててくれりゃいいのに、という気もします。それよりは「どうせ皆死ぬんだから、生きてるうちは仲良くしましょうよ」と、お墓つきの家に住みたいものです。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
こういうメンタリティですよ。らもさんが私に教えてくれたのは。お棺の出しやすさと、その家づくり。だってね、核シェルターを作る方が魅力的に聞こえるもんじゃないですか。人ってとっても、不安な生き物ですから、他人がどうでも、自分の家は大丈夫ってメンタリティで成り立っている事が多くて問題が増えてる気もしますけど。でも、らもさんは、全く逆の、お墓つきの家ではどうですかって提示!いや、お墓つきの家ってなんなんですか。と突っ込みたくもなりますが、「どうせ皆死ぬんだから生きてるうちは仲良くしましょうよ」そんな事言って、本当に、みんなと仲良くしながらも、突然逝っちゃったらもさんは、有言実行の人です。