相談1

エスカレーターで
歩くのは関西人?

 昨年、初めて大阪へ行きました。元旦の早朝、皆こぞって「動く歩道」を歩いていくのを見て、なんと関西の人はせわしないのだろう、と思いました。私が学生時代東京にいたとき、エスカレーターでも歩いて上っていく人を見なかったです。しかし数日前、あの永田町と赤坂見附の乗り換えのエスカレーターで、人はみなスタスタと歩き上っていく現場を見ました。あの人たちは関西からの流れ者ですか?

(長野市・関西弁がこわい女・29歳)

らもさんの回答

 まさにそれは関西からの流れ者、というか「隠れ関西人」ですね。

 隠れ関西人は動く歩道やエスカレーター、ことごとく歩いて突き進みます。交差点の信号も、車側のものが黄になったとたんに走る態勢にはいっています。そのために大阪の梅田の交差点には、青になるまで「あと十秒」「あと五秒」といった電光掲示板がついています。

 隠れ関西人の見つけ方は比較的簡単です。目の前でタコヤキを一個ぽろりと床に落とし、「あ、おっこっちゃった」かなんか言いながら靴で踏みつぶすのです。そして前を見ると、そこには血圧二四〇くらいに上がって失神寸前の隠れ関西人の顔が。

「なにさらすねん、アホ・ボケ・カス」とまで言うかどうかはわかりませんが、ま、絶交はまちがいないでしょう。

 僕も、しょっちゅう東京に行くようになるまでは、歩く歩かないの差に気づきませんでした。どうしてみんなじっとしているんだろう、と不審に思ったほどです。これは結局「損得」に対する考え方の違いなのではないでしょうか。

 関西人は動く歩道を歩く(中には走っている人もいますが)ことで、何を得したか。「時間」ですね。逆に東京の人は、じっと運ばれていくことを得だと思う。この得は「歩かなくて体がやすまってうれしい」ということです。

 それにしても関西人はなぜそう急ぐのか、謎です。僕は関西人ではないのかもしれない。締め切り日を越して二、三日してからゆっくり書き始めますから。

中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん

松本侑子さんより

若い頃、東京から大阪に引っ越して数年間、暮らしました。関西の食事と人情が肌に合い、とても楽しい日々でした。驚いたのは、らもさんも書いている交差点。信号が青になるまで「あと○秒」とカウントダウンが出る上に、隣のおじさんがジリジリと足踏みをしていたのです。梅田のたこ焼き屋で、ネクタイ姿の会社員さんが大勢、ランチを食べている姿にも驚きました。たこ焼きをおかずに、ご飯と味噌汁の定食があるのです!大阪の面白さに、わくわくする毎日でした。