夫婦喧嘩に油注ぐ
東西言語の力ベ
私の主人は吉本の「モーレツしごき教室」に育てられたと自負する
(大阪市・頭ぱっくり子・26歳)
頭の中を割って見られると困りますね。大阪人の頭にはタコヤキが詰まってますが、東京人の場合は納豆がはいっています。それでよけいに、「なんじゃ、こりゃ!」ということになってしまうのですね。
とにもかくにも、大阪人に向かって「バカ」。これはいけません。東京人に向かって「アホ」というのと同じくらいグサッとくるからです。関西人の場合、「アホ、ボケ、カス」、この三点セットで攻めて、初めて「そこまで言わんでも」といった反応が返ってくる。「アホ」は丸くてやさしいのですが、「バカ」はほんとにムカッとくる言葉なのです。
夫婦ゲンカを避けるためには、まず「バカ」を封印すること。次に「いけず」「好かんタコ」「アホ」。この三つを学びましょう。「いけず」は「意地悪」。「け」にアクセントを置きます。「好かんタコ」は「私はタコが好きではありません」の意で、「す」と「か」にアクセント。「アホ」にはアクセントはありません。
実用例を示します。彼が夜遅く帰ってきた。あなたはご飯を作って待っていた。
「外ですましてきたからメシはええわ」
「作って待ってたのに、いけずやわあ」
「そやかて、腹いっぱいやもん」
「電話一本くれたらええのに、好かんタコ」
「おこりないな。な、ほんまにおこったんか」
ここです。ここで、二・五秒ほど間を置いて、「......あほ」と言うのです。ケンカになるところが、子どもができてしまったりします。
しかし、ほんとに腹の立つときは、「寝言いうんじゃないよ、バカ」と勇ましく闘いましょう。二刀流の勝ちです。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
大阪では関西弁にも魅了されました。宅配のお兄さんが配達すると「おおきに」と言って帰るのです。東京で「ありがとう」と配達されたことはないため、「おおきに」の意味の深さと温もりに感動しました。大阪で、何かの仕事の後、わかぎえふさんのご案内でバーに行くと、らもさんがカウンターに突っ伏して寝ておられました。えふさんが私を紹介してくださると、らもさんは顔を上げ、「あ、ども」と会釈して、また目を閉じました。あのきれいな瞳は、30年たった今も忘れられません。