相談2

相撲しか頭にない私がこわい

 私は相撲が好きでたまりません。街を歩いていて急に足が止まり、心臓が高なるので、あたりを見渡せば決まって「子供相撲大会」などのポスター。それだけならいいのですが、「相模で過ごす休日」とか「相談承り」などのときも。テレビでも「両氏、まさにがっぷり四つ」とか「○○氏は肩すかしをくった形」などと聞くと、その人のまわし姿が目に浮かんでしまいます。このままでは将来ちゃんこ料理屋に奉公しそうでこわいのです。

(東京・呼び出し寛吉になりたかった私・23歳)

らもさんの回答

 僕も広告の仕事をしている商売がら、何かひとつのものに頭がいってしまって困ることはよくあります。たとえば日本酒の広告をしているときには四六時中酒のことを考えているわけで、喫茶店でコーヒーを「冷やでくれ」と言って笑われたりします。

 おかしかったのは「ふりかけかつら」の仕事をしたときです。「ふりかけかつら」とは何かというと、薄くなった地肌にふりかけると人体の静電気で頭皮に付着し、黒々と見えるというものです。この仕事をしている期間中のある夕食どき、ふと気づくと僕は白いご飯にふりかけを力いっぱいかけながら「もっと生えろ、もっと生えろ」と心の中で叫んでいるのでした。

 このように頭から離れないものが別にどうでもいいようなものだったり、あなたのように自分の好きなものだったりする場合は別に問題はありません。

 困るのはそれが恐怖の対象だったときでしょう。個人的にいうと僕の場合、お相撲さんにはテレビの画面からこっちへは出てきてほしくありません。昔、エレベーターに二人の関取と乗り合わせてしまってたいへん怖かったからです。筒井康隆さんの作品にも「走る取的とりてき」という恐怖ものがあります。バーで目が合ったというそれだけの理由で相撲取りがどこまでも追っかけてくるという話です。前の戦争では東条英機がドイツ軍に数人の相撲取りをプレゼントしました。シベリアでの秘密兵器として使ってくれという軍事援助なのです。どうしてシベリアなんだというヒトラーの問いに東条は「スッポンポンで風邪ひかん」と答えたというのです。こわいですね、お相撲さんは。

中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん

タブレット純さんより

この相談者さんのように、ぼくも小学生の頃、相撲しか頭にない時がありました。正確には「麒麟児」に魂を抜かれた季節。授業中気がつくとジャポニカ学習帳の“おなまえ”に「垂沢和春」(彼の本名)と書いていたり、公園のオブジェのパンダを富士桜に見立てて突っ張りしていたり。そう、らもさんはいつでも、酒席で一人あぶれた者の隣りで静かに杯を傾け、「俺も一緒や」と照れながら痛烈に面白い話を奏でてくれるお兄さま。頁をめくる紙の匂いで、懐かしく酔わせてくれます。