僕の体にタマゴがふたつある!
うずら卵の卵かけご飯が大好物の四歳の息子。おふろで自分のこう丸をみつけ、「タマゴがふたつもある!」と驚嘆のようす。
毎度ふたつあることを確かめ、ついには自分のではあきたらず「お母さんのもさわらせて」と迫ってきて困っています。お母さんにはない、と言っても信じません。よい「撃退法」を。
(広島県・悩める母・32歳)
この手の話で圧倒的に多いのはお父さんと女の子がおふろに入っていて、「ね、お父さんにはどうしてシッポがあるの?」とたずねるケースです。こういう場合はあわてずに、「お父さんはね、『旧人類』だからシッポがあるんだよ」と答えましょう。こういうことは変に隠しだてせずに、ほがらかに受け答えしたほうがよいのですが、かといってあまりにおおっぴらなのも考えものです。
知人とその子どもといっしょにおふろに入ったときのこと、その知人はお湯の中で腰を浮かして「シッポ」の先をお湯の表面に出したり沈ませたりしながら、「イチロー、ほれ、潜水艦だぞ。潜望鏡、潜望鏡!はははははは」。
子どもはもうキャッキャいって喜んでいるのですが、僕はふと「こんな奴をオヤジにもって、この子、さきゆきどんな大人になるんだろう?」と一抹の不安をおぼえたものでした。
さて、問題の「卵ぜめ撃退法」なのですが、こういうのはどうでしょうか。
朝、起きがけのお母さんのふとんの中に、ゆで卵をふたつ、あらかじめ入れておきます。その卵を子どもにみせて「あっ、お母さん、卵産んじゃった。ね、見てごらん、ふたつあるでしょ。お母さんね、ふたつとも産んじゃったから卵もうないの。ね?」。
息子さんはその日から自分も早く大人になって卵を産みたいものだ、と楽しみがひとつ増えるはずです。
中島らも『明るい悩み相談室』シリーズ(朝日文庫)より転載 イラスト/死後くん
らもさんの回答は、ひとを小馬鹿にしたような例え話や、すごく変な友人の話や、とても珍しい知識を披露したりとさまざまです。そしてこの回答にも友人の話は出てきます。でもたまに最後の段落にあるように「これ使えるんとちゃう」と思ってやってみる気にさせるものもあります。私はそおいう回答がとても好きです。思いがけず百円ほど拾ったような気になります。「広島県・悩める母」さんもきっと実行していると思います。