「老いるショック」は、老いを陽気にかわすための呪文です!

「ゆるキャラ」「マイブーム」などの生みの親である、みうらじゅんさんの新語、「老いるショック」。通販生活では「老いるショック認定委員会」を設立し、読者投稿を常時募集しています。で、「老いるショック」ってなに? 認定委員長のみうらさん、教えてください!

老いを宣言して
自らを笑おう

「老いるショック」という言葉はけっこう前に思いついてましたが、50代で言い出すのはまだ早いと待っていました。でも還暦がきたのでついに解禁です。この赤いちゃんちゃんこと頭巾は自ら手に入れました。チェ・ゲバラ風にちょっと横かぶりにすると意外にイケるでしょ(笑)。
 いま、ダイエットとか美容で男も女も若者に近づこうとしていますよね。いや、ムリですから。
「形あるものはすべて壊れる」とお釈迦さまも2000年以上も前に言っておられます。「永遠」は、人間がつくったただの言葉にすぎません。
 だったら、老いていることを自ら宣言して笑っていこうではありませんか。膝痛とか腰痛とか、老いを感じたところを自らゆび指して「老いるショック!」と、声に出します。クイズ番組『タイムショック』みたく“ショォ~ック”の部分を強調すると、なお陽気でいいでしょう。
 年寄り自慢を聞かされるのはウザいですが、「老いるショック!」なら周りも嫌な気はしないはずです。老いるショックは“退化”を“進化”に変える呪文なのです。

老いるショックを
感じるとき

 かつて、バーでミュージシャンの大先輩に「四十肩なんです」と言ったら「僕は五十肩だよ」と返されました。するとカウンターに座っておられた漫画家のレジェンドが「さっきから聞いてたけど、お前ら40だ50だでガタガタ言ってるんじゃないよ。こっちはオムツで飲んでるんだぞ!」って(笑)。オムツときたらふつうミルクじゃないですか。老いるショックの大先輩は酒ですよ。カッコ良すぎでしょ。
 探しものがやたら増えるのも典型的老いるショックです。この間、読みかけの文庫本をずーっと探したけどどうしても見つからなくて、朝、冷蔵庫を開けたら、チーズの箱の横でキンキンに冷えてました(笑)。何かを出した代わりにうっかり入れたんですかね。ここは文庫本に向かって小さく「老いるショック」と言っておきました。
 男の辞書には昔から「ハメマラ」って言って、老化は「歯」、「目」、最後は「マラ」の順番で来ると書いてあります。僕の場合も、歯はもうずいぶん前から具合が悪くてほとんどがニセモノです。眼は小5の時から近眼が始まってて、そこに乱視、40歳過ぎて老眼のトッピング。山の温泉で満天の夜空を見上げても、星は2、3個しか見つからず、月は乱視で膨張して絶えず満月気味。こんな時に人生のはかなさを感じるのはフツーすぎます。夜空に向かって「老いるショック!」の出番ですね。

老いるショックで
かわいい人になる

 昔、取材で火葬場見学に行ったことがあります。焼くところって2畳もないんですね。いくら生前、大きい家に住んでいるのが自慢でも、最期に入る間取りは平等なんです。老化現象も、多少程度の差こそあれ誰にでも平等にやってきます。だったらここは飛びっ切りのかわいい人になって、介護する人を喜ばせてあげようではありませんか。頑固はいま流行ってないですから。老いるショックはかわいい人になるための一助です。自分を見直すチャンスともいえますね。
 なんども同じ話をするのも老いるショックの一環です。しかし、同じ日に、同じ現場で、同じ話を2回もするようでは聞いている人も堪りませんね。でも大丈夫、老いるショック認定委員会はその現象を「ループオン」と呼びます。キープオンロケンロール(*)のさらに上、ループオンロケンロールの意です。話をされる時は、前もって「私、ループオンしますよ。きっとしますよ」と申し出てください。僕も若い人と話すときは申し出るようにしています。
 ジェネレーションギャップにちょっとイラっとしてしまうのも、老いるショックの負の側面ですね。例えば“ウルトラマンの話”をしている時、自分より若い人から、タロウ以降の新しいウルトラマンの名前が挙がっても、そこは「すべてのウルトラマンを認める」寛容な気持ちを持つことを心掛けましょう。
 ほら、心構えひとつでかわいい人になれる感じしません?

老いるショックに
定型なし

 皆さんの周りでもあちこちに老いるショックが発生しているはず。1970年代以来の2度目のオイルショックが自分にきています。「若者たちの聞く歌がアタマに入って来ない」とか、「なんだか、性別を無くしてきた」と感じておられる方も多いでしょう。ぜひオモシロおかしく、自分が感じた老いるショックを報告してください。
 余生のカウントダウンは生れた瞬間からすでに始まっています。「ぼくも!わたしも!」老若男女の投稿、お待ちしております。  老いるショックポイントを複数貯めた人は、さらに上の「老いるショッカー」に認定させていただきますからね。

みうらじゅん

1958年、京都生まれ。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。その後、イラストレーター、エッセイスト、ミュージシャンなど幅広く活躍中。