特別対談・キャンディーズ(Part1) 佐藤利明×馬飼野元宏

特別対談・キャンディーズ(Part1) 佐藤利明×馬飼野元宏

Part 1

馬飼野元宏 × 佐藤利明

キャンディーズとピンク・レディー。ともに国民的な人気を集めながら、1970年代を瞬く間に疾走していったガールズ・グループである。

両者はしばしばライバルとして比較されることがあったが、キャンディーズは1973年9月から1978年4月まで、ピンク・レディーは1976年8月から1981年3月までと、活動期間が重なりあった時期は意外なほどに短い。

まったく異なる魅力を備えたこの両者が活躍した1970年代。リアルタイムにリスナーとして触れた二人の書き手、佐藤利明(1963年生まれ)と馬飼野元宏(1965年生まれ)が、2組のアイドルの足跡を振り返りながら、未だ輝きが失せることのないその魅力を熱く語り合う。

イラスト/いともこ

令和の時代にたった一人で、
キャンディーズを体現する伊藤蘭。

佐藤今回、キャンディーズとピンク・レディーを取り上げたのは、それぞれの音楽が令和の時代になっても継続しているということを伝えたかったからなんです。キャンディーズでいうと、解散から41年のブランクを経て、ランちゃんこと伊藤蘭さんが2019年にソロ・デビューを果たした。そのランちゃんが今まさにブレイクしている。

馬飼野今年7月にリリースされた、伊藤蘭さんの活動50周年を記念した3作目のソロ・アルバム『LEVEL 9.9』が物凄く充実した作品でした。シティポップもあれば、ファンクもソウルもあって。「もしもキャンディーズが解散せずに80年代も歌い続けていたら、こんな曲を歌っていたのかも?」と感じさせるテイストの曲がいくつもあるんですよ。中でも「Shibuya Sta. Drivin’ Night」という曲が衝撃。何とオートチューンを使って、ボーカルを加工しています。

佐藤オートチューンって、下手すると歌い手の個性を損なってしまうこともあるけれど、ランちゃんの場合は、彼女のボーカルの芯がきちっとしているから全然加工に負けていない。というか「あの頃の伊藤蘭」がそこにいる。何十年も別々にあると思っていたキャンディーズのランちゃんと、女優としての伊藤蘭さんのそれぞれの時間軸が、一気につながったような感覚になりました。

憧れていたアイドルが進化し続けている。
その過程に今、僕らが立ち会える喜び。

馬飼野ちなみに伊藤蘭さんのソロ・コンサートの構成って、主に前半でソロの曲、後半でキャンディーズのヒット曲を歌うというスタイルですが、時代が異なる楽曲を並べても不自然さがまったくない。過去と現在のギャップを感じさせない流れになっていて、凄く良くできています。

佐藤美しさもエレガントさもパワーも、そのすべてがリアルな時間の経過を感じさせずに、ただただ「ランちゃんだよね!」ってみんなが思える凄さ。キャンディーズのデビューから50年経っても、あの頃と今をつないで、僕らの音楽体験を裏切らないでいてくれる。70年代からの日本歌謡史をちゃんと現在形として体現しているのが、伊藤蘭というアーティストなのだと僕は思います。

2023年7月にソニー・ミュージックダイレクトからリリースされた、伊藤蘭の最新ソロ・アルバム『LEVEL 9.9』(レベル・ナイン・ポイント・ナイン)。

佐藤実はそれってピンク・レディーのミーさんとケイさんにも言えることなんです。ピンク・レディーの場合はダンスが進化している。2017、2018年の「日本レコード大賞」での生放送のノンストップメドレーなどは、70年代の全盛期を超えたのではないかと思わせるパフォーマンスでした。しかも解散宣言から30年経った2010年に、「解散やめ!」宣言をした、れっきとした現在進行形のグループなんです。二人ともに精力的なソロ活動を続けていて、それぞれのステージでピンク・レディーの楽曲を歌い繋いでいる。キャンディーズもピンク・レディーも、憧れていたアイドルがまだまだ進化し続けている。その過程に今も僕らが立ち会えている喜びがある。

キャンディーズとピンク・レディーは、今もなお継続している。それを踏まえ、改めて過去の楽曲から彼女たちの歌を、言葉を、サウンドを聴き返すと、実に様々な発見がある。まずはキャンディーズの三人がデビューした1971年へと遡ろう。

「年下の男の子」を初めて聴いた時、「あ、俺のことだ」って思った(笑)。佐藤 利明

時代の波に乗り切れなかった、
デビュー当初のキャンディーズ。

キャンディーズのデビュー曲「あなたに夢中」は、作詞・山上路夫、作曲・森田公一、編曲・竜崎孝路が手掛けた。デビュー当初は、スーちゃんこと田中好子がセンターに立ってリードボーカルを担当した。

馬飼野「あなたに夢中」の作家陣は、「恋する夏の日」のヒットで天地真理を大ブレイクさせた座組と同じ。渡辺プロとCBS・ソニーは、天地真理での成功事例をキャンディーズにも応用するつもりだったのかもしれない。その頃、天地真理と並ぶ人気だったのが南沙織や麻丘めぐみでした。天地真理が子供からお年寄りまで幅広い人気を得た大衆向けアイドルだったとすれば、南沙織や麻丘めぐみは言わば“世代間アイドル”。彼女たちと同世代である中高生や大学生に照準を合わせていた。ほぼ素人の女の子だった南沙織のような存在が突如デビューして、アイドルとして磨きがかかっていくプロセスがとても新鮮に映った。そしてファンも一緒になって育てていく感覚が強くなった。

佐藤そういう意味で、キャンディーズはデビューの時点ですでにウェルメイドな印象が強かった。彼女たちは元々スクールメイツ在籍中に、NHK『歌謡グランドショー』のマスコットガールに抜擢され、その後『8時だョ!全員集合』でもアシスタントを担当するなど、デビュー前のレッスン期間も長い。そういった渡辺プロ的なオーソドックスな戦略は60年代には相応しかったけど、70年代に入るとよりソリッドな、作り込まれないキャラクターに世間の注目が移行していった。

馬飼野だからキャンディーズは、デビュー曲から4枚目のシングルまで大きなヒットにならなかった。楽曲のクオリティはとても高いんですが。例えば「あなたに夢中」は、一人ずつコーラスを重ねていく構造が凄く良くできている曲で。だけど最高位が36位。安井かずみ作詞、森田公一作曲の3枚目「危い土曜日」は46位止まり。派手なブラス・セクションが印象的で、歌詞の内容もちょっと山口百恵っぽい感じ。でも、この「危い土曜日」は後々キャンディーズのライブの定番曲としてバズるんですよね。

佐藤「危い土曜日」がライブの定番曲となったのは、バックバンドを務めたMMP(ミュージック・メイツ・プレイヤーズ)のアレンジと演奏がめちゃめちゃかっこいいというのもあるけれど、それだけのポテンシャルを持つ曲を森田公一さんが用意していた事実を、後に僕らは知るわけです。そして続く4枚目が、僕も大好きだった「なみだの季節」。ここでキャンディーズの名曲の多くを手掛けた、千家和也さんと穂口雄右さんがいよいよ登板となります。