特別対談/ピンク・レディー(Part1) 佐藤利明×馬飼野元宏 P2

特別対談/ピンク・レディー(Part1) 佐藤利明×馬飼野元宏

Part 1

馬飼野元宏 × 佐藤利明

イラスト/いともこ

日本中が「絵空事路線」に
踊った。熱狂した。

馬飼野この時期の阿久悠さんの歌詞の傾向は、“断定的”です。いきなり「ペッパー警部」って歌い出しで、「ペッパー警部って誰?」と何か引っ掛かるけど受け入れてしまう。山本リンダにしても「噂を信じちゃいけないよ」とか。聴き手としては「そうですか」と否応なしに認めざるを得ない(笑)。そういう意味では感情移入はまったくできない。けど、何か凄い。

佐藤「何だか分からないけど分かる」というのが阿久悠さんの世界。次のシングル「S・O・S」(1976年11月25日発売/最高位1位)は、女の子の貞操の危機を描いた啓蒙ソング。「年頃になったなら慎みなさい」とか、ちょっと前までペッパー警部の前で「私たちこれからいいところ」とイチャイチャした女の子が、いきなり変わる。教育的指導を説く訳ですが、補導する側の論理みたいなことを女の子に言わせて、逆説的なパロディにしていく。

馬飼野サウンド面でいうと、「ペッパー警部」はブラスロック調でした。ところが「S・O・S」ではガラリと変わった。都倉さんはビートルズが大好きで、この曲は「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」からの影響を感じさせます。

佐藤1976年末に新人賞を獲って、明けて77年は「S・O・S」をずっと歌っている中で、3枚目のシングル「カルメン'77」が出ました(1977年3月10日発売/最高位1位)。

馬飼野僕はこの曲が、ピンク・レディーを生で観たのが最初。当時、新宿厚生年金会館で「ビクター歌謡ショー」というレコード会社主催のリサイタルがあり、ピンク・レディーが出るというので観に行きました。イントロのマリオネットのような複雑なダンスも印象的でした。そしてここでもいきなり、私の名前はカルメンです」と、阿久さん特有の断定的な歌詞が飛び出した(笑)。

佐藤お笑い芸人がコントを演じる時に、観る側もその設定にすんなり入り込むように、ピンク・レディーの楽曲もその設定が当たり前のように聴き手が受け入れてしまう。「お色気ありそでなさそうです」って、どっちなのよっていうね(笑)。一幕のピンク・レディー劇場の中に入り込むっていうことが、だんだん楽しみになってくる。だけど、これでも自分たちが応援する糸口が掴めない。例えば『M-1グランプリ』なんかを観ていて、知らないお笑い芸人が出てきて戸惑いつつも笑ってしまうような、そんな感覚に近い。

二人の歌唱力や表現力の高さ。しかも、それを踊りながらこなす凄さ。 馬飼野元宏

佐藤「ペッパー警部」「S・O・S」「カルメン'77」と立て続けに大ヒットになったことで、本来はターゲットとしていなかった子供たちまでもが歌や振り付けを真似するようになった。そこで阿久さんは自身が書いた「ピンポンパン体操」みたいに、もっと広い層を狙っていけるんじゃないかと考えた。そこで生まれたのが、4枚目の「渚のシンドバッド」でした。

4枚目のシングル「渚のシンドバッド」は1977年6月10日発売。最高位1位を記録し、年間チャートでも1位を獲得。累計売り上げでグループ初のミリオンセラーを樹立した。この曲と沢田研二の「勝手にしやがれ」から、サザンオールスターズの「勝手にシンドバッド」というタイトルが生まれたのは有名な話。また、大瀧詠一は長万部キャッツの名義で音頭調にアレンジした替え歌を制作した。

佐藤七つの海を渡るように、女から女へと飛び回る調子の良い男。クレイジー映画の植木等さんのようなC調キャラクターをシンドバッドに見立てた。それに対して「ちょいとお兄さん慣れ慣れしいわ」と、花魁言葉を若い女性に言わせる阿久さんの仕掛けも面白くて。この時代は都市の若者文化で「陸サーファー」とかが出始めた頃。これは都倉さんに聞いた話ですが、ビーチ・ボーイズのサーフ・サウンドをこの曲でやりたかったらしいです。

馬飼野そうなんですね。確かにイントロはホットロッド調です。難しい曲と簡単な曲が、テレコになって発表されているのも特徴。「S・O・S」や「渚のシンドバッド」は比較的シンプルな楽曲の印象です。

佐藤阿久さんの歌詞としては、カルメンの次にシンドバッドのように完全に「絵空事路線」。日常生活を脱却してマーベルコミックみたいになっている。ここでピンク・レディーのブームが本格的に巻き起こり始めて、レコードがミリオンセラーになるだけでなく、「ピンク・レディー人形」「ピンク・レディーおしゃれセット」とか、他業種も巻き込んだ社会現象になっていった。次も当てなきゃいけないというプレッシャーがあるはずなのに、阿久悠さんの凄いところは、次の曲でさらに大胆な仕掛けをブチ込んできました。

二人の歌唱力や表現力の高さ。しかも、それを踊りながらこなす凄さ。 馬飼野元宏
5枚目のシングル「ウォンテッド(指名手配)」は1977年9月5日にリリース、最高位1位。前作に続き、2作連続のミリオンセラーとなる。この曲で第28回NHK紅白歌合戦に初出場。

佐藤阿久さんはこの曲で、片岡千恵蔵主演の映画、七つの顔を持つ男「多羅尾伴内」シリーズのキャラクターを歌詞に取り込んだ。阿久さんは少年時代に好きだったものや、そこから受けたインパクトをツイストして入れていく。要するにゼロベースじゃなく、アイデアの源泉が必ずある。受け手である子供たちがそれを分からなくてもいい。面白いのは、この曲は女の子が多羅尾伴内を追い掛けるストーリーなのに、B面は「逃げろお嬢さん」という曲で、今度は女の子が追い掛けられるという(笑)。

馬飼野「ウォンテッド(指名手配)」って、全然関係のないメロディーを合成する、パッチワーク的な作曲法を取り入れています。イントロがバラードで、Aメロがファンク調、そこからセリフが入って、またメランコリックな展開になっていく。かなり複雑な構成になっていて。それを踊りながらこなす二人の歌唱力や表現力の高さも素晴らしい。さらに言えば、これだけキーの違う女性デュオって他にはなかなかいないと思いますが、この2つのボーカルを上手くハマらせた都倉さんの楽曲もやっぱり凄い。

佐藤1977年は「ウォンテッド(指名手配)」が大ヒットする中で、年末にさらなるシングルが発表されます。実はこの年、全米で『スター・ウォーズ』が公開されて、空前のSFブームが起こりました。日本公開が翌年7月までお預けを食らう中で、国内で東宝が『惑星大戦争』、東映が『宇宙からのメッセージ』を製作した。それと同じようなことを阿久悠さんは、ピンク・レディーを媒介にして仕掛けた。それが12月5日に発売された「UFO」だったのです。

(Part 2に続く)

取材・構成/宮内健、撮影/武政欽哉、レコード提供/鈴木啓之