沢田研二「君をのせて」〜友情の歌
沢田研二
「君をのせて」
〜友情の歌
浜田真理子(シンガーソングライター・ピアノ弾き語り)
若者に人気の昭和歌謡
地元のライブハウスの忘年会では、サプライズでカラオケが用意されていて、みんなで珍しがって歌った。集まっている人たちは昭和生まれの昭和育ちが多いから、選ぶ曲も自然と昭和の歌のオンパレードになった。
私もたくさん歌った。昭和の歌は意外にもアルバイトの大学生たちに好評だった。彼らは平成生まれ、西暦で言えば2000年代だ(!)。
その中に「昭和歌謡大好きなんです!」という子がいた。「昭和歌謡が流行ってるの?」と聞くと、キラキラした目で「もっと早く(昭和歌謡の時代に)生まれたかったです」とまで言う。えー! 知らなかった。そんなに人気だとは。
ここ数年のサブスクの普及のおかげで、古今東西の音楽が横並びで一斉に聴けるようになった。コレクターじゃなくてもマニアックな音楽が聴けてしまう。今風に言うなら「どんどん掘れる」。
カバーのカバーのカバーの曲だって、オリジナルまで簡単に遡れる。お金や情報やチャンスがないと聴けなかった昔の子供たちと、今の子供たちとの違いはそこにある。なんにしても、好きな昭和歌謡が若い人にも人気なのは嬉しいことだ。
ジュークボックスで聴けなかった
「君をのせて」
さて、今回は沢田研二さんの「君をのせて」について。白状すると、私はこの歌をずっと知らなかった。この曲は1971年11月の発売で、作詞:岩谷時子、作曲:宮川泰で、沢田研二さんにとってザ・タイガース解散後のソロデビュー曲なのだそうだ。
1964年生まれの私は、グループサウンズ時代の音楽をリアルタイムで聴いたことがほとんどない。というか、聴いてはいたのかもしれないけど記憶にない。
ザ・タイガースもザ・スパイダースもザ・テンプターズも、気づいた時には解散していてメンバーがそれぞれソロ活動をしていたから、沢田研二さんのこともなぜ「ジュリー」と大人が呼ぶのか分からなかったくらいだ。
記憶に残る最初のジュリーの曲は、次のシングル「許されない愛」だろうか。いや、まだまだ曖昧だ。「危険なふたり」なら確実に記憶がある。そんなわけでファーストシングルの「君をのせて」は知らなかった。
うちの家はスナックだったから、ジュークボックスでいろんな歌を聴いていたけど、「君をのせて」は入っていなかったと思う。
当時のジュークボックスは、今のように配信で一律の音楽が自動的に入るとかではなく、店の人が買ってきたレコードを定期的に入れ替えるシステムだった。
しかも普通はリースで置くジュークボックスを、なぜか父は買い取って自分のものにしていた。なのでうちの店のジュークボックスには、父が買ってきたレコードしか入っていなかった。新しいレコードを買っては、タイトルを小さな紙に嬉しげに書き込んでセットしていた父の姿を思い出す。
父はジュリーよりはもう少し上の世代。グループサウンズというよりは、同じギターでも、ハワイアンとか、古賀メロディーとか、ベンチャーズとか、寺内タケシの世代だったからね。
歌の好みが世代ではっきり分かれる時代だった。そのせいで、私は「君をのせて」という素晴らしい名曲を知らないで、うっかり一生を終えるところだった。危なかった。
当時、ジュリーはこの歌はあまり好きではなかったということをどこかで読んだことがある。近年、私はジュリーのコンサートに2度行っている。2017年の50周年記念コンサートと2018年の70歳記念コンサートだ。
50周年の時にはワンコーラスだけ、ザ・タイガース時代から現在までの曲が50曲歌われた。「君をのせて」の時は客席が盛り上がった。70歳記念では歌われなかった。
友情の歌
音楽舞台『マイ・ラスト・ソング』を通じて、「君をのせて」を随分遅れて知ることになった。選曲ミーティングでは、プロデューサーの佐藤剛さんや佐藤利明さん、そして小泉今日子さんの、私以外のみんなが「あれいい歌だよね」と大推薦だった。久世光彦さんも友情の歌として大好きな曲だったとのこと。しまった、遅れをとったと慌ててYouTubeで聴いた。
「君をのせて」は、華麗なオーケストラの駆け上がりのイントロで始まる。それはまるで舞台の幕が上がるかのようで、一聴して「ああ、なんか素敵なことが始まる」という気分になる。
ジュリーの美しい、太い芯のある声で「風に、吹かれ、ながら」と歌われると、情景が見えてくる。三文字の言葉が散りばめられている。岩谷時子さんグッジョブ! メロディも同じくらいかっこいい。三文字の言葉たちに綺麗にメロディがつけられていて、とても歌いやすい。
阿久悠さんが亡くなられてすぐの舞台『マイ・ラスト・ソング』では、トリビュートの意図も込めて、久世光彦さんと阿久悠さんの友情を描くシーンを盛り込んだ。
そこでこの曲が選ばれた。友情の歌だと絶賛した久世さんも喜ばれたことだろう。君をのせてゆくのは「夜の海」である。昼の海ではなんだか雰囲気が出ない。歌うたびにいろんな発見がある。
舞台のクライマックス。久世光彦さんと阿久悠さんのポートレートが大きく映し出される。久世さんと阿久さん、二人の友情を思いながら私は歌う。
ピアノの向こう側には、ポートレイトを見上げる今日子さんが見える。美しい立ち姿に客席が見惚れている。その姿がうんと映えるように歌いたいと思う。いつのまにか夜の海を渡る船の気持ちになっている。