沢田研二「ヤマトより愛をこめて」〜さらばと言わせない別れ

沢田研二「ヤマトより愛をこめて」〜さらばと言わせない別れ

佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)

46年ぶりの『さらば宇宙戦艦ヤマト』

2024年1月5日。1978(昭和53)年に製作された『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』が4Kデジタルリマスター化されて、都内のシネコンでもリバイバル公開された。

劇場には、公開当時に中高生だった世代のファンが駆けつけ、久しぶりの「宇宙戦艦ヤマト」との邂逅と別れを味わっていた。

僕の場合、1974年(昭和49)年、小学校5年生の時にテレビで『宇宙戦艦ヤマト』のオンエアを観た。そして1977(昭和52)年の夏に、劇場版に再編集された『宇宙戦艦ヤマト』の公開日に銀座東急の行列に並んだ。

ちなみに銀座東急の前身は、戦前の1938(昭和13)年4月に開業した「銀座全線座」。ヨーロッパのお城の尖塔のような建築が印象的で、『宇宙戦艦ヤマト』公開初日は劇場前に長蛇の列。場内は中高生、そして大学生の男女で賑わっていた。ここから1970年代後半、空前のアニメブームが始まったのだ。

その翌年、完全新作の完結編として製作されたのが、1978年8月5日公開『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』だった。

この時、銀座東急は老朽化のため閉館していたので、15歳の僕は新宿のミラノ座に徹夜で並んで、初日の第1回目の上映を観た。徹夜組や始発組があまりにも多かったので、劇場では早朝から前倒しで上映された。今では考えられないほどの熱気だった。

脚本はテレビシリーズも手掛けた藤川桂介と、同じくテレビ『宇宙戦艦ヤマト2』の山本英明。監督は日活で石原裕次郎作品などを演出してきた舛田利雄。音楽は宮川泰、主題歌の作詞は阿久悠と、テレビシリーズからの座組みである。最大のセールスポイントは「ヤマトの最期」だった。

ガドランティス帝国が白色彗星と共に地球を壊滅させようとする。それを阻止するために、ヤマトの艦長となった古代進(声/富山敬)が、生き残った乗組員を退艦させ、恋人の森雪(声/麻上洋子)の亡骸を抱いて、地球に迫る巨大戦艦に艦隊特攻をする。

地球を守るための自己犠牲はアナクロな「特攻礼賛」と批判もされたが、それゆえのカタルシスもあり、劇場では女の子のファンの啜り泣きも聞こえた。

イラスト/いともこ

沢田研二×阿久悠×大野克夫

ヤマトが捨て身の特攻をするシーンでは、主題歌「宇宙戦艦ヤマト」(作詞:阿久悠/作曲:宮川泰)が葬送曲のようなアレンジで流れる。やがて閃光と爆発の後、画面が真っ暗になる。

その直後、画面から流れてくるのは美しいピアノのイントロ。沢田研二が歌う「ヤマトより愛をこめて」(1978年8月1日発売)である。作詞は阿久悠、作曲は大野克夫。1975(昭和50)年、久世光彦演出のTBSドラマ『悪魔のようなあいつ』の主題歌「時の過ぎゆくままに」からスタートしたトリオだ。

シングルとしては「憎みきれないろくでなし」(1977年9月5日)、「サムライ」(1978年1月21日)、「ダーリング」(1978年5月21日)から4作連続となる「阿久悠×大野克夫×沢田研二」の作品。

前年、沢田研二はこのトリオによる「勝手にしやがれ」(1977年5月21日)で、第8回日本歌謡大賞・大賞、第19回日本レコード大賞・大賞とグランプリを獲得。空前のピンク・レディー旋風が吹き荒れる中、ジュリーの快進撃が続いていた。

そこで「宇宙戦艦ヤマト」の仕掛け人である西崎義展プロデューサーは、ヤマトの最期に相応しい楽曲を、阿久悠の作詞、沢田研二の歌でとオファーした。

阿久悠の詞をもとに、当初はヤマトのサウンドイメージを作り上げ、サウンドトラックを手掛けていた宮川泰が作曲したが、候補の4曲いずれも西崎が気に入らず、そこで大野克夫にオファー。結果的にコンペとなって「ヤマトより愛をこめて」が生まれた。編曲は宮川泰がまとめ上げた。

かつて宮川泰さんとレコーディングの仕事をご一緒した時、この件のことを伺った。「あれはね、やっぱり大野(克夫)さんの曲、デモテープを聴いてね。それが抜群に良かったの。あれは大成功でしたね」と笑って話してくれた。

また、僕が出演していた『夕暮れの阿久悠』(文化放送)の最終回「ヤマトより愛をこめて」(2016年3月22日)のために、大野克夫さんがコメントを寄せてくれた。

「アレンジの宮川さんが、デモテープのピアノの音を気に入られて、『どうやって出すの?』と聞かれたので、『生ピアノにアタッチメントつけて、エフェクトかけたんです』とお答えしました。レコーディングで、宮川さんはその通りにやってくださったんです」

そのデモテープが奇跡的に残っていて、CD『大野克夫 幻のメロディー』(2003年)に収録されている。その音源を聴くと、宮川泰が大野克夫のオリジナルをいかに気に入ってアレンジしたのかが分かる。それがあのラストシーンに結実した。

1978年8月1日にリリースされた、沢田研二24枚目のシングル「ヤマトより愛をこめて」(ポリドール)。提供/鈴木啓之

阿久悠の想い、ジュリーの歌声

阿久悠の歌詞は、愛する人の美しさが「花に」「星に」優るなら、君は両手を広げて「守る」がいい。その愛は「からだ」を投げ出すだけの値打ちがある。一人一人が想うことは、「愛する人のためだけ」でいいと綴っている。

映画は自己犠牲の精神を全面に打ち出して、「特攻礼賛」とも取られかねないのだが、阿久悠の歌詞は、そうした「国家」への自己犠牲ではなく「愛する人のため」だけでいい、と主人公・古代進に優しく語り掛けているようだ。

しかも映画タイトルの「さらば」の意味合いを逆転させるように、「今はさらばと言わせないで」ほしいと、阿久悠は「特攻礼賛」への抵抗を示している。大義のためでなく、あくまでも個人主義であれと。

沢田研二の美しい歌声、大野克夫のメロディー、そして宮川泰の編曲で完成した「ヤマトより愛をこめて」は、映画そのもののテーマと方向性、印象を変えるほどのインパクトがあった。それが阿久悠の詞のチカラであり、沢田研二の圧倒的な表現力あればこそ、である。

アニメの主題歌ではあったが、沢田研二の新曲としてたちまちチャートイン。ヒットチャートでは4位、TBS『ザ・ベストテン』では最高位2位を記録するヒットとなり、この年の沢田研二の快進撃のさらなる弾みとなった。

1978年8月にリリースされたサウンドトラック盤(日本コロムビア)。「ヤマトより愛をこめて」のインストゥルメンタル版を収録。提供/鈴木啓之