知的障害を持つお子さんと暮らしながら、同じ境遇にいる人たちの不安や悩みを少しでも軽減できればと、長年勤めた出版社を退職して「親なきあと」相談室を立ち上げた渡部伸さんによる連載コラム。自らの経験をもとに「親なきあと」に関する役立ち情報をお伝えしていきます。
住まいの確保
前回のコラムで「親なきあと」の課題は次の3つであると書きました。
お金で困らないための準備をどうするか
住まいはどのように確保するか
日常生活で困ったときのフォロー
今回は2の「住まいの確保」について具体的にお話していきましょう。
住まいの選択肢は増えている
健常者であれば、実家を出て生活するとなると「どの町に住むか」「どんな間取りの部屋にするか」「家賃はいくらか」など、いろいろ考えて住まいを決めることと思います。
でも、障害者や引きこもりの人の場合は「一人だけでは暮らせない」という人が数多くいます。そのため中年期に差し掛かっても、親と同居している人が多いという傾向があります。もちろん親はずっと一緒にはいられません。では親が面倒を見られなくなったら、この人たちはどこで生活すればいいのでしょう?
知的障害者の場合、1950~70年代に大規模な入所施設が建てられ、そこに集められて生活するケースが多くありました。しかしこの入所施設は人里離れた場所に建設されることが多く、障害者は地域から隔離された環境で生活せざるを得ないといった状況でした。
1981年の国際障害者年を契機に、「障害の有無に関わらずみんなが同じように生活する」という、ノーマライゼーションの考え方が日本国内でも知られるようになりました。1989年には知的障害者を対象としたグループホームの制度が確立。地域に少人数で生活ができる施設を作って、以前の大規模施設への入所からの移行を目指すという方向になり、全国的に障害者の住まいはグループホームへと移ってきています。
都道府県による2018~20年度の第5期障害福祉計画の集計では、2020年度の施設入所者数見込みが12.7万人なのに対して、グループホームは13.6万人と、1989年にグループホームの制度ができてから、初めて施設入所者数を上回る見込みです。
「障害者グループホーム」とは?
グループホームで受けられるサービスは、法律の条文によると「主として夜間において、共同生活を営むべき住居において相談、入浴、排泄又は食事の介護その他の日常生活上の援助」となっています。
つまり、夜間~朝に日常生活の支援を受けるので、日中は仕事場や作業所などに出かけるのが原則。居室についてはほとんどが個室です。食事、入浴、洗濯、トイレなど、他の利用者に配慮しなくてはいけない場面もありますが、それなりの自由度とプライバシーは保障されています。
グループホームの利用料金の仕組みですが、費用としては家賃、食費、光熱水費などの実費です。家賃については地域によって差は大きいですし、同じ地域でもホームによって様々。ただし、全国統一で1万円の家賃助成があり、地価の高い都市部などの市区町村ではさらに独自の上乗せをしているところもあります。
前述のように、ここで生活する人は昼間は外出することが前提なので、多くのグループホームでは日中に支援者はいません。しかし、重度や高齢の障害者にとっては毎日出掛けるのは大変、昼間も部屋でゆっくりしたいという希望が出てくるのは当然のこと。
そこで2018年に「日中サービス支援型」という新しいタイプが登場しました。このグループホームでは、24時間いつでも支援できる体制が確保されていて、相談や日常生活の援助などのサービスが行われ、より手厚い支援が受けられます。
また、グループホームの中には「サテライト型」と呼ばれるものがあります。本体住居から少し離れたところにあるアパートなどで生活ができ、支援員から定期的な巡回によるサポートも受けることができるので、一人暮らしが可能です。
このように、一口にグループホームといっても近年では多様化が進んでいます。
支援を受けながら生活できる場所
ここまで紹介してきた障害者グループホームは、その名の通り障害者が対象なので、障害者手帳を持っていない引きこもりの人は利用できません。
そこで考えられるのがシェアハウスです。高齢者や軽度の障害者、引きこもりだった人など、自分たちだけでアパートなどで生活するのは難しいけれど、少しの支援や見守りがあれば地域生活ができる方たちにとって、一つの選択肢になります。
また、障害者の中にも共同生活ではなく支援を受けながら一人暮らしをしたいという人も当然います。一人暮らしを希望する人向けの支援制度は、近年急速に増えつつあります。これについては次回で詳しく紹介します。
親と離れて生活するのはいつから?
「うちの子は一人暮らしをするのは無理だから、グループホームか施設に入所させたいんです」
親御さんから住まいのことについて相談を受けていると、最も多いのがこのパターンです。もちろん、本人のことを理解しているはずの親の意見なので尊重はします。でも、やったことがないのになぜ「無理」と断言できるのか。そもそも子どもの住まいのことを親が勝手に決めていいのか。
どのような住まいや暮らし方で生活がしたいのか。それを決める時に一番大切なのは本人の希望です。「子どもは自分で決めることはできない」と言われるかもしれません。でもそれは「本人に選択肢を与えていないから」ではないでしょうか。
グループホームはどんなところなのかを知るために、宿泊体験が試せるショートステイを体験してみる。一人暮らしを試したいのであれば、福祉サービスである自立訓練を利用してみる。あるいはウィークリーマンションで短期間生活してみる……。
様々な経験を通して、自分が希望しているのはどういった暮らし方なのか、本人の中でもイメージができるでしょうし、自分では意思表示が難しい場合でも、親が様子を見ていると伝わってくるのではないかと思います。
障害者権利条約制定時の合言葉「私たちの事を私たち抜きで決めないで(Nothing About us without us)」を実践するために、本人の意思を尊重して、自己決定できる環境を一緒に作ってあげましょう。