「親なきあと」〜障害のある子、引きこもりの子を持つ人たちへ

イラスト/すぎやましょうこ

知的障害を持つお子さんと暮らしながら、同じ境遇にいる人たちの不安や悩みを少しでも軽減できればと、長年勤めた出版社を退職して「親なきあと」相談室を立ち上げた渡部伸さんによる連載コラム。自らの経験をもとに「親なきあと」に関する役立ち情報をお伝えしていきます。

第4回

一人暮らしを支える仕組み

初回のコラムでは、「親なきあと」の課題は次の3つであると書きました。

お金で困らないための準備をどうするか

住まいはどのように確保するか

日常生活で困ったときのフォロー

障害があり日常生活に支援が必要な場合であっても、必ずグループホームなどでの共同生活を選択しなくてはいけないわけではありません。本人が一人暮らしを希望するのであれば、可能な限り実現させてあげたいですね。

そこで今回は3の「日常生活でのフォロー」について。特に一人暮らしを希望する場合に、どのような支援を受けられるかについてお話します。

働きながら一人暮らしをする障害者の支援

2018年から、「自立生活援助」と「就労定着支援」という2つの福祉サービスが始まりました。

「自立生活援助」とは、一人暮らしの障害者の居宅を支援者が定期的に訪問し、食事や洗濯・掃除・ゴミ出しなどがしっかりできているか、公共料金や家賃の支払いが滞っていないか、さらには体調や健康を確認。日常生活における困りごとを把握して、必要な助言を行うものです。

制度がスタートした当初は利用期間が原則1年で、更新は最大1年間となっていましたが、2021年の改定でこの縛りがなくなり、無期限利用可能になりました。

「就労定着支援」とは、就労移行支援等を利用して一般就労した障害者を対象に、相談を通じて障害者が働く際に生じる生活面の課題を把握。その課題解決に向けて必要な支援を実施するとともに、企業や関係機関との連絡調整を行うという制度です。

利用期間は最大3年間で、利用期間終了後は障害者就業・生活支援センター等の地域の支援機関に引き継いでいきます。

国の福祉行政としては、「こういったサービスを利用することによって、なるべく多くの障害者が働いて一人暮らしをしてほしい」という方針です。お金を稼いで自由に暮らしていければ、より生活の幅が広がるとは思います。

ただし、「自立生活援助」はまだそのサービスを担う事業者が少なく、多くの人が利用できる状況にはなっていません。

重度の障害者の一人暮らしを支える制度

障害の状態が重く、働くのも難しい人は、一人暮らしは選べないのでしょうか? 特に人と関わるのが苦手な障害者の中には、入所施設やグループホームといった集団生活が難しい人もいると考えられます。

そこで「重度訪問介護」というサービスがあります。ホームヘルパーが自宅を訪問し、入浴・排せつ・食事などの介護、調理・洗濯・掃除などの家事に関する相談や助言をはじめ、生活全般の援助や外出時の移動中の介護を総合的に行います。

生活全般について介護サービスを手厚く提供することで、常に介護が必要な重い障害がある人でも、在宅での生活が続けられるように支援します。制度利用の対象となるのは、以前は重度の身体障害者のみでしたが、2014年から知的障害や精神障害の一部の人も利用対象になりました。

手帳がなくても利用できる仕組み

障害者手帳を持っていない引きこもりの人は、こういった福祉サービスは受けられません。しかし「親なきあと」にそのまま一人暮らしを続けたい場合に、利用できる可能性のある事業があります。

「日常生活自立支援事業」は、判断能力が十分ではなく、自分だけで福祉サービスの利用手続きや、預金の出し入れ、公共料金の支払い、通帳など重要な書類の管理をするのが不安だという人が利用対象となります。事業主体となる社会福祉協議会と本人が契約をすることで、定期的に支援員が訪問・サポートします。

利用料金は自治体によって違いますが、1回1時間の支援で1,000円~2,000円程度というところが多いです。また、通帳等を預かってもらう場合は貸金庫代の実費が必要です。

2015年にスタートした「生活困窮者自立支援制度」は、生活保護になる手前の生活困窮者を対象に自立に向けた相談支援を行い、家計支援や就労、居住に関することなど生活全般に渡る包括的な支援を行います。

相談窓口は都道府県や市区町村の福祉担当部署、社会福祉協議会など自治体によって異なりますので、行政の窓口に確認しましょう。利用料金は必要ありません。

同じ悩みを共有できる場を見つける

知的障害や精神障害であれば、地域に家族会などがある場合が多く、そこで障害者の家族特有の悩みについて、相談したり情報を得たりすることができます。

引きこもりの場合は、なかなかそういった組織がなく、本人のみならず家族も孤立してしまうようなことが少なくありませんでした。

ただ、最近は引きこもりについても家族会が発足したり、あるいは当事者だった人が自分の体験を語って相談にのったりという仕組みも少しずつ増えてきました。引きこもり支援について力を入れている自治体も出てきています。

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