「親なきあと」〜障害のある子、引きこもりの子を持つ人たちへ

イラスト/すぎやましょうこ

知的障害を持つお子さんと暮らしながら、同じ境遇にいる人たちの不安や悩みを少しでも軽減できればと、長年勤めた出版社を退職して「親なきあと」相談室を立ち上げた渡部伸さんによる連載コラム。自らの経験をもとに「親なきあと」に関する役立ち情報をお伝えしていきます。

第6回

成年後見制度って何?

成年後見制度という言葉。「聞いたことはあるけど、詳しくは知らない」という方は多いのではないでしょうか。

厚生労働省の『成年後見はやわかり』というサイトには、以下のように記されています。

成年後見制度とは、知的障害・精神障害・認知症などによってひとりで決めることに不安や心配のある人が、いろいろな契約や手続をする際にお手伝いする制度です。

つまり、判断能力に不安のある障害のある人や認知症の人のために、その人を支援する人がついてくれる仕組みのこと。

成年後見制度には、「ノーマライゼーション」「自己決定権の尊重」「身上保護の重視」の3つの基本理念があり、この基本理念を守りながら本人を保護する制度となっています。

・ノーマライゼーション

障害者も可能な限り地域社会の一員として通常の生活が送れるような環境や仕組みを作り出す。

・自己決定権の尊重

自分のことは自分で決めることができ、その意思をみんなが尊重する。その人の持っている力を最大限生かして、自分らしく生きる。

・身上保護の重視

財産管理のみに偏らず、身上保護にも力を入れた後見活動を行う。

成年後見人の2つの役割

成年後見人とは、判断能力が不十分な人の財産や権利を守るため、その人を保護して援助する人のことです。

役割は大きく分けて2つ、財産管理と身上保護です。これらの活動に関しては家庭裁判所に報告義務があります。一般的には年に一度行います。

財産管理

本人の預貯金の出し入れ、保護、不動産などの管理、処分など施設やグループホーム(GH)に入所している場合は、小口のお金は施設側が管理し、大口のお金を後見人等が管理していることが多い。

身上保護

診療、看護、福祉サービスなどの利用契約、本人との面談。施設やGHに入居する際に判断能力が不十分で、本人では契約ができない場合、本人に代わって契約をすることができる。

成年後見人等が自ら介護行為をするわけではない。他にも、福祉の利用契約や役所の手続きなどを行う。また、定期的に面会を行い、安心して生活できているかどうか、困ったことがないかなど、本人に寄り添った後見活動が求められている。

「後見」「保佐」「補助」
の違いは?

成年後見制度は、本人の判断能力に応じて「後見」「保佐」「補助」の3パターンに分かれています。

「後見」

判断能力が不十分で、日常的な買い物も自分ではできない状態の人が対象。財産管理や法律行為に関して、後見人が代理で行い、本人が結んだ契約を取り消す権限もあります。

「保佐」

日常的な買い物は一人でできるけれど、借金や相続の承認及び放棄など、重要な財産に関する行為を行うときには支援が必要、といった方が対象。これらの行為を本人が行う場合、保佐人の同意が必要で、本人の同意がない行為については取り消す権限があります。

「補助」

一人でも重要な財産に関する行為を行えないことはないが、誰かの支援があったほうが安心である、といった人が対象です。保佐人よりも同意や取り消しの権限の範囲は狭くなっています。

成年後見制度は障害者に向
いていない?

成年後見制度の理念は素晴らしいものです。しかし、障害のある子を持つ親御さんの中には「なるべく成年後見制度は利用したくない」と考えている方も少なくありません。

いろいろな理由があるでしょうが、最大のネックは、一度始めたら原則やめられない、本人が亡くなるまで続く制度である、ということです。

本人の権利擁護のためには必要な制度だとは思いますが、一生本人について回るということを始めるのは、大きな決断が必要になりますよね。

そして、課題となるのは後見に関わる費用です。専門職が就任した場合、長期間にわたって後見報酬を払わなくてはいけなくなり、収入源が障害基礎年金だけの人など、「決して多くはない収入なのに、さらに少なくなってしまい困っている」という声も複数耳にします。

後見人の報酬は家庭裁判所が決定するものなので、活動に対して支払われる正当な費用だと私は思っています。

しかし、親が面倒を見ているのであれば、この報酬は支払わなくても済むわけです。「できるだけ成年後見制度は使わないでおこう」と考える親御さんがいてもおかしくはありません。

相談できる場所を知っておく

「成年後見制度は本人の権利擁護のために必要」と考える方はぜひ利用してほしいです。それも一つの選択です。

一方で「できれば使いたくない。まだまだ子どもの面倒は見られる」という自信があるのなら、「待つ」という選択肢も有力です。使いたくないのに、いやいや使う制度ではありません。

ただし、本人の判断能力が不十分であれば、いつかは使わなければいけない時が来ます。では「いつから利用すればいいの?」。私はこの質問には次のようなアドバイスをしています。

「両親がいれば必要ありません」

「親が一人だけで、その方が自分の健康に不安が出てきた時には制度の検討をしてください」

「本人に兄弟/姉妹がいて、後見の手続きを託せるようなら、両親が亡くなった後でも構いません」

しかし、検討する・託するといっても、具体的にどうすればいいのか。ここで重要なのは、いざという時に相談できる場所を知っておくことです。

多くの自治体では、成年後見センターや権利擁護センターという名前の、後見制度について相談できる窓口が設置されています。そこに行けば後見制度の内容や手続きについて教えてもらえます。

また、親の会などに加入していれば、先輩の会員で詳しい方がいたりする可能性が高いので、そこでも有意義な情報を得られるでしょう。

成年後見制度は今後変わって
いく?

現在、成年後見制度の見直しの議論が行われています。その中で、スポット的な後見制度利用の案が検討されています。

相続手続き・銀行口座の解約・不動産売却・施設の入所契約など必要な時だけ本人に代わって後見人が手続きをし、その後は辞任し制度利用も終了する。それ以外の期間は日常生活自立支援事業や新たな事業を創設して本人をサポートする、というもの。

まだ実現するかどうかは不透明で、実現するとしても数年先になりそうです。もし実現すれば、後見制度利用の最大のネックがなくなり、「必要な時にはしっかり支援を受けられることになる」ので、私たちにとっても大きな安心材料になるのではと期待しています。

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