「親なきあと」〜障害のある子、引きこもりの子を持つ人たちへ

イラスト/すぎやましょうこ

知的障害を持つお子さんと暮らしながら、同じ境遇にいる人たちの不安や悩みを少しでも軽減できればと、長年勤めた出版社を退職して「親なきあと」相談室を立ち上げた渡部伸さんによる連載コラム。自らの経験をもとに「親なきあと」に関する役立ち情報をお伝えしていきます。

第10回

「親なきあと」相談室事例
【学齢期の場合】

前回のコラムでご紹介した通り、私が主宰している「親なきあと」相談室では、メールや面談で障害のある方のご家族からの悩みや不安を伝えていただき、相談にお応えしています。

私のところに相談に来られるのは、拙著をお読みいただいた方や講演会に参加された方がほとんどです。しかし、「親なきあと」の本人を支える制度や仕組みについてはある程度理解したつもりでも、「その制度をどう使えばいいのか」「自分たちの家族に当てはめて考えるのは難しい」という方が大変多いのです。

そこで今回からは、私が今まで受けてきたご相談の中からいくつかピックアップして、それぞれのケースではどのような制度が使えるか、「親なきあと」の生活をどう想定し、私がどのようなアドバイスをしたかをご紹介します。

今回は、まだ子どもが学齢期という親御さんからの相談を3件取り上げます。

※なおここに紹介した事例は、家族や環境などは個人が特定できないように変更を加えています。

相談①

当事者: 3歳の女児、重度の知的障害
相談者:父親

子どもの将来のために、できるだけお金を残してあげたいと考えています。今は職場も住まいも東京なのですが、家賃も高いので、実家のある北関東のA県に帰ったほうがいいでしょうか?  また、二人目の子どもも欲しいのですが、お金が掛かってしまうので、どうしたらいいか悩んでいます。

  

お金を残す仕組みを準備しましょう

 まだお子さんも未就学で、先のことがよく分からず大きな不安を抱えていらっしゃるのだと思います。ただ、たくさんのお金を残すために今の生活を変える必要はありません。

 特に重度の知的障害の人の場合は、将来的にもさほどお金は掛からないことが多いのです。障害年金や医療費の助成など、様々な支援を受けることができます。まずは今の生活を大切にしてください。

「そうはいってもお金はあったほうが安心」という場合は、本人が年金の形で定期的にお金を給付してもらえる、障害者扶養共済や生命保険信託を検討されるといいと思います。

 これらは加入される方の年齢が若いほうが、払うお金と受け取るお金のバランスで有利になる可能性が高いのでオススメです。

 将来のお子さんの生活について、例えば家族会に入って先輩の親御さんの話を聞く、関連の書籍など読んで情報を得るなどして、少しずつイメージを持ってください。そうすることで、やみくもに不安になることは避けられます。

相談②

「障害年金の準備について教えて」

当事者:小学5年生の男児、軽度の知的障害
相談者:母親

息子は現在、支援学級に通っています。「親なきあと」はまだまだ先ですが、本人の生活の安定のために障害基礎年金は確実に受給させたいと考えています。今からしておくべき準備はありますか。

  

かかりつけ医を確保しておきましょう

 障害基礎年金の判定結果には、1級・2級・非該当があります。判定材料としては、主治医の診断書が大きなウエイトを占めます。

 知的障害の場合、精神科および精神・神経障害の診断や治療に従事している医師による診断書が必要になりますので、医師には継続的にかかっておくようにしてください。

 障害が分かった時は通っていても、その後落ち着いたので精神科のクリニックには通わなくなったという方もいらっしゃいますが、年金の診断書はこういった医師に書いてもらうことになります。

 また、もう一つ判断の基準になる書類として、病歴・就労状況申立書があります。これは「いつどういう病気になった」「障害によってこのようなことがあった」などを時系列で書くもので、親が書くケースが多いです。

 年金の申請の時に、過去のことを思い出しながらこれを書くのは大変です。障害に関する出来事は、どこかにまとめてメモしておいてください。年金申請の時に参考になります。

相談③

「まだ子どもが学齢期ですが、不安でいっぱいです」

当事者:高等部2年生の男子、広汎性発達障害
相談者:母親

息子は一人っ子です。IQは80程度で知的障害の範囲外ですが、周囲とのコミュニケーションがうまくとれず、小学生の時からいじめに遭っていて、中学生の時に医師から広汎性発達障害の診断を受けました。息子は今の学校に楽しそうに通学していて、私たち両親もまだまだ元気なので、今は特に困っていることはありませんが、支援学校を卒業したら、仕事はできるのか、障害年金はもらえるのか、そして親がいなくなったあとは本人の生活はどうなっていくのか、将来については分からないことだらけで不安がいっぱいです。今からどんな準備をすればよいでしょうか。

  

まずは手帳を取得して支援を受けやすくしましょう

 将来のために考えておきたいことはいろいろありますが、まずは障害者手帳の申請をしましょう。広汎性発達障害とのことなので、精神障害者保健福祉手帳は取得できる可能性があります。

 手帳があることで、支援を受けられることが増えますし、何よりも就労の際、通常の採用が難しくても、障害者雇用で働ける道が開けます。

 障害基礎年金がもらえるかどうかは何とも言えませんが、かかりつけのお医者さんがいるので、医師に診断書のことなどを相談してほしいと思います。

 将来のお金のことですが、働いて得られる収入や年金以外にも、定期的な収入を確保しておきたいところです。まだ親御さんの年齢も若いので、障害者扶養共済や生命保険信託は検討に値すると思います。

 新しい情報を得るために、また、ちょっとした不安や困りごとについて相談できるように、同じ悩みを持った家族の会などに加入することもオススメです。

 息子さんの場合だと発達障害の会になると思いますが、最近はこの分野の法制度や行政サービスが進んできています。家族の会に入っていることで、情報が手に入りやすくなるでしょう。

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