「親なきあと」〜障害のある子、引きこもりの子を持つ人たちへ

イラスト/すぎやましょうこ

知的障害を持つお子さんと暮らしながら、同じ境遇にいる人たちの不安や悩みを少しでも軽減できればと、長年勤めた出版社を退職して「親なきあと」相談室を立ち上げた渡部伸さんによる連載コラム。自らの経験をもとに「親なきあと」に関する役立ち情報をお伝えしていきます。

第11回

「親なきあと」相談室事例
【高齢の場合】

今回のコラムでは、お子さんが40代の壮年期に差し掛かった親御さんからの相談を2件ご紹介します。

お子さんが40代ということは、親御さんも高齢になっているので、より具体的な「親なきあと」の準備を考える必要が出てきます。

※なおここに紹介した事例は、家族や環境などは個人が特定できないように変更を加えています。

相談①

「親も高齢になり、そろそろ具体的な準備が必要になってきました」

当事者:45歳の男性、重度の知的障害
相談者:両親

 息子は日中、近くの生活介護施設に通所しています。他にきょうだいは二人いますが、それぞれ家庭を持って別に暮らしています。現在は私たちと息子の三人暮らしですが、もう70代後半で、自分たちがいなくなったあとのことを真剣に考え始めています。特に成年後見制度のことなどを詳しく知りたいです。

  

必要なのは住まいと後見制度、そして遺言です

 まず考えたいのは息子さんの住まいについて。ご両親としては支援の手厚い入所施設を希望とのことですが、今住んでいるところの近くにはなく、かなり遠方でないと難しいのが現状です。

 ただ、息子さんは近隣のグループホーム併設のショートステイを利用していて、そこは気に入っているとのことなので、入所施設にこだわらず、グループホームも選択肢に入れて探してみてはいかがでしょうか。

 できれば親が元気な間に住まいを移行すると、週末は実家に帰って来られるので、生活が180度変わるのではなく、段階的に変化させることができます。グループホームの空き情報は、計画相談事業者などから入手するのがいいでしょう。

 成年後見制度は、ご両親が健在なのでもう少し待ってもいいかと思いますが、誰を後見人候補にするかなど、具体的な検討はしておきたいですね。きょうだいを頼るのは申し訳ないとのことですが、このことについて話をしたことはないそうなので、一度きょうだい自身の考えも聞いてみてください。

 また、実際に成年後見の申し立てをするにあたり、分からないことを聞きたい場合は、地域の社会福祉協議会等が運営する成年後見についての相談窓口を利用しましょう。実際に申し立てるのは、どちらかの親が亡くなってからでいいと思いますが、もちろん早めにスタートしても構いません。

 もう一点やっておきたいのは、両親それぞれが遺言を書いて、遺言執行者を決めておくことです。息子さんは文字が書けないとのことなので、遺言書のないままどちらかが亡くなると、後見制度の利用は猶予したいと考えていたとしても、遺産分割協議書を作成しなければならず、その時に成年後見人の就任が必須になります。

 また、きょうだい間の揉めごとを避けて、親の希望を実現するためにも、遺言はぜひ書いていただき、そのことについてお子さんたちにあらかじめ伝えておいてほしいと思います。

相談②

「体が弱く、高齢になった時のことが心配です」

当事者:40代男性、軽度の知的障害
相談者:母親

 息子は40代で、5年前からグループホームに入居し、日中は就労継続支援B型の事業所に通っています。私は70代前半で夫を亡くしており、今は一人暮らしです。きょうだいは兄が一人、遠方で家庭を持っています。障害年金も受給しており、お金のことや住まいについては特に心配はありません。

 ただ、本人は病気がちで、健康面で心配があります。入院することになった時、介護が必要になった時に、就労施設やグループホームでは対応できないのではないかと不安を感じています。知的障害者の老後についてお伺いしたいです。

  

支援者間でケース会議が行われるのが理想です

 これは大変重要なポイントだと思います。私は「親なきあと」の準備で必要なのは、お金のこと、住まいのこと、日常的な支援の3つだと考えていますが、本人の医療・介護については、この日常的な支援体制の中で、対応できると考えています。

 たとえばグループホームに入居している障害者が、高齢になったり体調を崩したりしてホームでの生活が難しくなった場合、親や親族などの介護者がいないとなれば、その時点で支援しているホームの生活支援員、計画相談事業者、成年後見人などが関わって、高齢者施設や病院など次の居所を確保することになると思われます。

 この時に、支援者同士の連携が必要になってきますので、こういった対応が必要になる前から、定期的に支援者が集まるケース会議が行われていることが理想だと思っています。

 そのためには、親が面倒をみられなくなる前に、支援者同士で面識を持てるようにしておくこと。最初は年1回程度でもいいので、ケース会議を実際に開催しておき、将来的にキーパーソンになる人や法人に、親や介護者なきあとも継続的に集まって話し合いの場を持つことを託しておくといった対策が考えられます。もし可能であれば、お兄さんにもこのケース会議に参加してもらえればなおいいですね。

 いずれにしても地域に託していかなければいけないので、親がいなくなっても本人の生活を守ってもらうために、支援者のチームを作ることが何よりも大切だと考えています。

お知らせ

相談の事例はまだまだたくさんありますが、2024年6月刊行予定の書籍でご紹介したいと思います。個別相談をご希望される方は、ゆうちょ財団さんのホームページからお申し込みください。面談によるものか、オンラインかを選べます。もちろん相談は無料です。

また、全国に同じ志を持つ「親なきあと」相談室ができています。私のホームページにリストを掲載しています。この中からお近くの相談室にご連絡いただければと思います。

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