通販生活の疑問

新聞、テレビ、インターネット……

21年10月の衆院選挙で、
有権者はどの情報を参考に投票したのだろう。

21年10月31日の衆議院議員選挙で、自民・公明の与党は過半数(233議席)を大きく上回る293議席を獲得して圧勝。
選挙前、「与党の苦戦」「野党の善戦」を伝えるメディアもありましたが、その予想を裏切る結果となりました。
新聞、テレビ、インターネットなど、有権者はどの情報を参考に投票したのか──。
通販生活は、市民グループ[国民投票/住民投票]情報室の協力のもと、選挙当日の全国5都市の投票所で335人に対面調査を実施しました。
その結果をお伝えすると共に、同情報室の事務局長でジャーナリストの今井一さんに解説していただきます。

解説・文 今井一

今井一さんのプロフィール

「2021年衆院議員選挙」
投票者調査

  1. 今回の選挙で投票先(政党、立候補者)を決めるにあたって、あなたが参考にしたもの、自分の判断に影響を及ぼしたと思われるものにを付けてください(複数ある場合は3つまでOKです)。

    1. 新聞、雑誌などの記事
    2. 新聞に載っていた政党や候補者の宣伝広告
    3. テレビの政見放送
    4. テレビのニュース、情報
    5. テレビで流れていた政党や候補者の宣伝広告
    6. テレビ、ネットで放送・配信していた討論番組
    7. ネット上に流れていた選挙に関する情報
    8. 友人、知人の口コミ(フェイスブックやツイッターを含む)
    9. 世話になっている人、加入している組織・団体からのすすめ
    10. 政党や候補者のチラシ、ポスター
    11. 政党や候補者の集会や街頭演説
    12. 選挙管理委員会から届いた「選挙公報」
    13. その他(  )
  2. 今回の選挙で投票先(政党、立候補者)を決めたのはいつ頃ですか?
    を付けてください。

    1. 投票期日(10月31日)の1か月以上前
    2. 投票期日(10月31日)の1週間以上前
    3. 投票期日(10月31日)の直前あるいは当日
  3. 今回は与党(自民・公明)、野党のどちらに投票しましたか?
    を付けてください。

    1. 与党および与党の候補者
    2. 野党および野党の候補者

回答者属性

  • 総数…335人
  • 性別…女性166人/男性169人
  • 年代…20代44人/30代62人/40代60人/50代55人/60代61人/70代42人/80代11人

調査地域

札幌市…40人
東京23区内…119人
横浜市…58人
京都市…45人
大阪市…73人

京都市内の投票所での調査の模様。

回答の集計結果

グラフの見方

 ここに示されたグラフに表記された%(パーセンテージ)は、回答総数ではなく回答した人の数を母数にしています。
 例えば、[問1]は投票先(政党、立候補者)を決めるにあたって、参考にしたもの、判断に影響を及ぼしたものをたずね、A~Mまで12の選択肢を設けて回答していただきました。3つまで選択可能とし、335人の回答者が計648の選択をしました。
 その内訳をみると、[D]の「テレビのニュース、情報」を選択した人の数は134人で、これは回答者全体(335人)の40%にあたります。この調査に回答した10人に4人が「テレビのニュース、情報」を参考にした、影響を受けたということです。
 同じく[A]「新聞、雑誌などの記事」を選択した人の数は90人(回答者総数の26.9%)、[G]「ネット上に流れていた選挙に関する情報」を選択した人の数は77人(同23%)でした。
 そして、その中には、[A]と[D]の2つを選択した人もいれば、[A][D][G]の3つを選択した人もいます。

問1

投票先を決めるのに参考にしたものは?(複数回答3つまでOK)
有効回答数 648票(回答者数335人)

( )内は%

※20代の中には10代の2人も含む。


問2

投票先を決めた時期はいつ頃ですか?
有効回答数 333人

問2世代別内訳

( )内は%


問3

与党(自民・公明)、野党のどちらに投票?
有効回答数 311人

問3世代別内訳

( )内は%

はじめに

 今回の対面調査は、衆院選の投開票日(10月31日)に、5つの都市の10か所の投票所前で行ないました。投票所前には私たちのほかに報道各社が派遣した出口調査の担当者もいましたが、その人たちが調査していたのは「どの政党・候補者に投票しましたか」や「どういう政策を重視して投票先を決めましたか」というものです。
 今回、私たちが行なった調査の[問1][問2]は、そうした報道各社の設問とは異なり、選挙期間中、有権者は、新聞、テレビ、インターネットなど、どういった媒体を参考にし、何に影響を受け、いつごろ投票先を決めたのかを問うものです。
 なぜこうした調査を行なったのかというと、私たちは、選挙にせよ国民投票にせよ、有権者がさまざまな情報を吟味し、できるだけ理性的な判断をして一票を投じることが上質な民主主義を育むためには欠かせないと考えているからです。
 ネットに流れているフェイク情報を信じ込まないとか、テレビを使った刷り込みや印象操作の“カモ”にならないとか、個々人が有権者としてリテラシー(理解・分析能力)を高めることが求められるのですが、まずは、人々が投票に際して参考にした媒体、影響を受けた媒体が何なのかを、推測ではなく対面で調査することによってつかもうと考えました。


突出して多かった
「テレビのニュース、情報」を投票の参考にした人。

 結果はご覧のとおりですが、この調査によっていろいろなことが分かりました。そして、調査に基づいていくつかの推定をしてみました。
 この十数年の間に、インターネット、スマートフォンが急速に普及したことから、ウェブメディア、ソーシャルメディア(ツイッターやフェイスブックなど)の情報拡散力が飛躍的に増大し、テレビ、新聞などマスメディアが持っている影響力は相対的に低下しました。しかしながら、それでもテレビの力はまだまだ大きいことが、この調査を通して分かりました。問1の棒グラフを参照
 [問1]で、テレビにかかわる選択肢は[C][D][E][F]ですが、[D]の「ニュース、情報」が134人(40%)と突出して多く、その次は[C]の「政見放送」で、75人(22.4%)がこれを選びました。
[F]の「討論番組」が38人(11.3%)と、「政見放送」より少なかったのが、やや意外でしたが、これは単純に放送時間に圧倒的な差があるからだと思われます。
「政見放送」はNHKを中心に選挙中の6日間、連日10回~12回に分けて(1日の合計は7時間余)流していました。一方、「討論会」は日本記者クラブが主催した党首討論会やテレビのニュース番組の枠内で各党論客による討論会などが行なわれましたが、放送時間の合計は「政見放送」の半分以下でした。
 ネットを使ったオンラインの「討論会」については、「ハフポスト日本版」や各地の青年会議所(JC)が主催して配信しましたが、開催数としてはまだまだ少ないと言えます。
 政党や候補者の主張が一方的に流れる「政見放送」と、互いの発言に異議や疑問を呈する「討論会」はまったく異質で、「討論会」はデマ、フェイク、刷り込みを暴いたり防いだりする効果が期待できます。
 例えば、2016年にイギリスで実施された「EU離脱」の賛否を問う国民投票では、BBC(英国放送協会)が投票日の2日前に、ボリス・ジョンソン(現首相)、サディク・カーン(現ロンドン市長)ら賛否両派の論客6人による公開討論会を主催して生中継しました。この討論会で、残留派は1千万人を超すテレビ視聴者の前で離脱派が撒き散らしたデマやフェイクを具体的に指摘して潰しにかかりました。
 また、「原発建設」の賛否やプルサーマル導入の賛否を問う住民投票を実施した新潟県巻町(1996年8月4日)や刈羽村(2001年5月27日)では、賛否両派の激しい宣伝合戦が行なわれる中、町主催あるいは賛否両団体共催の公開討論会を実施しました。巻町では反対・賛成各派が著名な専門家を招き、刈羽村では現職の資源エネルギー庁長官や反原発の学者らを招いて討論会を行ないました。私は当時現地で取材をしましたが、討論会場へ足を運んだ住民の多くがこの催しに満足し、賛否を決めるのにとても参考になったと話していました。
 選挙にせよ、国民投票にせよ、今後はこうした「討論会」がより多く開催され、テレビやネットで無数の有権者が視聴する方向に進めばいいと考えています。

日本維新の会躍進の原動力となった
吉村大阪府知事の連日のテレビ出演。

 今回の選挙で、テレビの恩恵を最も受けた政党は日本維新の会だとされていますが、そのことについて少し解説します。
 維新は本拠地ともいえる大阪で圧勝しただけではなく、東京や南関東ブロックなどでも比例区で公明、共産の獲得票を抜くなど大幅な得票・議席増を果たしました。選挙直後、維新のある幹部は私に「勝ちすぎやわ。これは吉村バブルやなあ…」と言いました。
 大阪はもちろん東京でも、主要なターミナルに吉村洋文氏(大阪府知事、日本維新の会副代表)が現れると、どこも黒山の人だかりとなりました。これは明らかにテレビの効果です。
 2020年以降のコロナ禍で府知事として在阪各局のテレビ(報道番組のみならず情報系ワイドショーにも)に連日出演していた吉村氏は、やがて東京キー局の番組にも頻繁に登場するようになり、彼の顔と名前は全国的に認知されました。
 このテレビを通しての視聴者(有権者)と吉村氏との接触時間の増大が「親しみ」を生み、彼を通して維新という政党への認知度や親近感を高めた人が増えたのではないでしょうか。
 ある在阪放送局の報道セクションのトップはこう語ります。
「選挙前はコロナ禍対策を語る知事として、吉村さんにはいろんな番組に出演してもらいました。うちだけではなく、各局ともそうです。それで、反維新の人たちからは『在阪メディアは吉村を出しすぎだ』とか『一方的に語らせないで厳しく突っ込め』とかいった抗議や意見を頂戴しましたが、府民の暮らしや仕事に影響を及ぼすコロナ禍対策に関する知事の考えを伝えないわけにはいきません。ただし、選挙の公示後はそれを控え、選挙戦では、知事ではなく日本維新の会という政党の副代表として彼を扱い、他党との公平性の確保に気を使いました」
 それでも、テレビ媒体がもたらした吉村効果は絶大だったと推定します。[問1]の選択肢D「テレビのニュース、情報」というのは、こうした選挙戦以前の露出・発言も含まれています。
 なお、大阪の投票所前での調査では、回答者が[問3]の「今回は与党(自民・公明)、野党のどちらに投票しましたか?」についてを入れる際、調査員に「維新は与党ですか? 野党ですか?」と訊ねた方が5人いました。これは他都市では見られなかったことです。おそらく、維新は大阪府・市では与党なので、念のために確認されたのだと思われます。

今でも小さくない紙媒体の影響力。
20代でも32%が「新聞・雑誌」を選択。

 [問1]で回答した人のうち90人(26.9%)が[A]の「新聞、雑誌などの記事」を選び、52人(16%)が[B]の「新聞掲載の宣伝広告」を選んでいます。合わせると40%を超えており、テレビほどではないですが新聞の影響力も小さくはないということが分かりました。
 若者の「新聞離れ」の話を大学教員の友人らから私はよく聞いていたので、20代の人は「新聞」を選択しないだろうと思っていました。ところが、調査をしてみると意外な数字になりました。
 44人の20代の回答者中最も多かったのは、予想通り[G]の「ネットの情報」17人(39%)でしたが、[A]「新聞、雑誌などの記事」と[D]の「テレビのニュース、情報」を選んだ人もそれぞれ14人(32%)いました。
 新聞を選んだ人が一定数いた理由を考えてみました。棄権率が高い20代の中で投票所に行って一票を投じる人は、「新聞を読まない」という20代の一般的な傾向とは異なるのかもしれません。それから、[A]を選択した20代の方のほとんどが両親と一緒に投票所に来ていました。そこから推定できるのは、彼らは一人暮らしではなく実家に住んでいて、そこで新聞を読んでいるということなのかもしれません。
 ちなみに、[A][D][G]を選択した人が、与野党どちらに投票したかについては、偏りがなくほぼ同数でした。

 投票先を決めた時期については、「1か月以上前」が133人(39.9%)、「1週間以上前」が99人(29.7%)、「直前・当日」が101人(30.3%)と全体としては大きな差はありませんでした。
 ただし、世代別でみると若者と高齢者によって大きな異なりがあり、傾向として若年層は「直前・当日」が多く、60代、70代の方は「1か月以上前」が多い。これは、高齢の投票者は、支持する政党・候補者が選挙戦の前から決まっている人が多いことを示しています。

選挙や国民投票で不公平が生じないための
テレビやネットに関するルール作りが必要。

 さて、いろいろと解説してきましたが、年が明けて国会が召集され、通常国会が始まると、各委員会の新たな陣容が決まります。その際、憲法審査会についても新しい委員が選出されるのですが、岸田首相が「在任中の憲法改正」を公言していることや、憲法改正論議に前向きな維新が躍進したこともあり、「緊急事態条項」「教育の無償化」といった憲法改正案や国民投票法の改正案についての議論が進むかもしれません。
 そして、近い将来、衆参各院で3分の2以上の議員が賛成して改正案が発議(主権者・国民への提案)され、その賛否を問う国民投票が実施される可能性があります。私は、その国民投票で多くの有権者が理性的な判断・選択をすることを願っています。そのためには、発議される前にきちんとしたルール設定をしておかねばなりません。
 今回の調査でも、テレビやネットが有権者の投票行動に影響を与えていることが明らかになりました。言論・表現の自由との兼ね合いもあり、慎重に考えなければいけませんが、CMでの「洗脳・刷り込み」や「資金力による不公平」が生じないようなルール設定(国民投票法の改正)が必要だと考えています。

今井 一さん

いまい・はじめ●ジャーナリスト、[国民投票/住民投票]情報室事務局長。1954年、大阪府生まれ。国内外の住民投票や国民投票を数多く取材。『国民投票の総て』『住民投票の総て』ほか著書多数。


[国民投票/住民投票]情報室

「市民主導による国民投票・住民投票の制度設計、民主的活用を促す」ことを目的とした市民グループ。
【住所】〒544-0003 大阪府大阪市生野区小路東2丁目1-12-710
【ウェブサイト】http://ref-info.com/ref-infoabout/

問2の世代別内訳()内は%
20代30代40代50代60代70代80代
1ヵ月以上前4
(7.5)
14
(22.6)
29
(48.3)
22
(40.0)
29
(48.3)
29
(69.0)
6
(54.5)
1週間以上前16
(30.2)
21
(33.9)
16
(26.7)
19
(34.5)
17
(28.3)
7
(16.7)
3
(27.3)
直前・当日33
(62.3)
27
(43.5)
15
(37.5)
14
(25.5)
14
(23.3)
6
(14.3)
2
(18.2)
問3の世代別内訳()内は%
20代30代40代50代60代70代80代
与党17
(43.6)
25
(47.2)
24
(41.4)
23
(44.2)
19
(32.8)
21
(52.5)
4
(40.0)
野党22
(56.4)
28
(52.8)
34
(58.6)
29
(55.8)
39
(67.2)
20
(48.8)
6
(60.0)

問3の回答者が投票の参考にしたもの

野党に投票与党に投票
A 新聞、雑誌などの記事50(28.1)33(24.8)
B 新聞に載っていた政党や候補者の宣伝広告34(19.1)15(11.3)
C テレビの政見放送43(24.2)28(21.1)
Dテレビのニュース、情報68(38.2)57(42.9)
E テレビで流れていた政党や候補者の宣伝広告11(6.2)5(3.8)
F テレビ、ネットで放送・配信していた討論番組25(14.0)9(6.8)
G ネット上に流れていた選挙に関する情報47(26.4)26(19.5)
H 友人、知人の口コミ(フェイスブックやツイッターを含む)12(6.7)13(9.8)
I 世話になっている人、加入している組織・団体からのすすめ6(3.4)11(8.3)
J 政党や候補者のチラシ、ポスター19(10.7)20(15.0)
K 政党や候補者の集会や街頭演説10(5.6)13(9.8)
L 選挙管理委員会から届いた「選挙公報」20(11.2)9(6.8)
M その他10(5.6)14(10.5)