あなたはする?しない?離婚を決める時

イラスト/大沢純子

離婚・再婚・子育てなどの本を30冊以上著し、カウンセラーとして25年間で1,000人を超えるご相談に対応してきた、家庭問題カウンセラー・作家の新川てるえさん。自らの4度の結婚経験を踏まえて、夫婦問題における様々なテーマや情報について綴っていく連載コラム。

第3回

家庭に潜む
ドメスティック・バイオレンス

ここ十数年で広まった言葉の一つに、「ドメスティック・バイオレンス(Domestic Violence)」があります。略して「DV」と呼ばれています。日本では「配偶者や恋人など親密な関係にある、又はあった者から振るわれる暴力」(内閣府)という意味で使用されています。

家庭の中に潜むDVの芽

私は家庭問題のカウンセラーとして、日々多くの相談や悩みと接しています。その中には「DVなのでは?」と思える内容も少なくありません。明らかに酷い暴力の場合には、警察や自治体などで設置しているDV専門相談窓口に行きますが、私のもとには本人にあまり自覚のないケースが目立ちます。

「夫が大声で怒鳴ります」
「友達と会いに行く時には夫の許可が必要です」
「『俺が稼いでいるから生活できるんだろ』とよく口にします。そのくせ私が外で働くことには反対します」

いかがですか。この程度のことは家庭内暴力に該当しないと思われますか?

さらに「直接の暴力は頻繁にはないけれど、過去に1度だけ足を蹴られたことがあります」とお話しされた方もいました。「それは明らかにDV被害者ですよ」とお伝えすると、「たった一度の事だし、それ以来直接の暴力はないのでDVにはあたらないと思っていました」と。

内閣府の配偶者暴力相談支援センターへの相談件数は、令和2(2020)年度に過去最高となり、高水準で推移しています。令和4(2022)年度は約12.2万件で、前年度とほぼ同数となっています。

表面化している報告件数はさることながら、家庭問題の相談には報告にまで至らないDVの芽がたくさんあると私は日々感じています。

暴力はエスカレートする

「喧嘩して声を荒げるくらい誰にでもあることじゃないの?」と思われるかもしれません。しかし、これが繰り返されると夫婦間に対等ではない関係性が生み出され、さらに酷い暴言や嫌がらせに発展していくのでDVの芽になります。

「夫の許可がないと外出ができない」と言われる方も多くいますが、なぜでしょうか。そもそも夫婦の関係性が対等ではなく、上下関係があるから行動一つにも許可が必要になってしまっている。おかしいと思いませんか?

最初は些細なことかもしれませんが、DVは次第にエスカレートする傾向にあります。

以前、夫の暴力が原因でお子さんを連れて別居を始めた方がいました。彼女の相談をお聞きしていると、「なぜもっと早く別居しなかったの?」と思うような内容でした。

これまで記載した行為にはすべて該当。さらには子育てが大変で疲れていて性行為を断ると不機嫌になり、1ヶ月以上口をきかない、足を蹴られるなど、明らかに家庭内暴力に該当するようなことが続いていました。それなのに彼女はそんな生活に5年以上耐えてきました。家を出たきっかけは子どもの前で暴言が増えたことだと言います。

「私は専業主婦ですが、子育てで忙しくて夫が満足するような家事をしっかりとできませんでした。彼を怒らせるのはいつも私に原因があると思ってきました。でも子どもの前で声を荒げる夫を見た時に、子どものために良くない環境だと思って別居を決意しました」

さらには浮気もあり、浮気理由の彼の言いぐさは「お前が応じないからだ」だそうです。子どもを連れて実家に帰ることも何度もありましたが、その時は夫は優しくなり、「もう二度としないから」と言って迎えに来たそうです。

DVには暴力加害者の行動サイクルがあります。「緊張の蓄積期」「暴力の爆発期」「開放期(ハネムーン期)」が何度も繰り返されます。加害者は被害者が離れていくのを防ぐため、暴力をふるった後は一転して、被害者に対し「二度と暴力をふるわない」と謝って優しくなります。

この時、被害者は「もしかしたら、暴力がなくなるかもしれない」と期待して関係を続け、DVのサイクルから抜け出せなくなります。このサイクルが何度も繰り返され、さらにエスカレートしていくと、被害者は次第に逃げる機会や自尊心を失い、脱出することが難しくなります。

DV加害者の行動サイクル

DVの芽に気がついたらしてほしいこと

私は過去に東京都のDV被害者の宿泊所の契約カウンセラーをしていたことがあります。酷い暴力にあって命の危険を感じて逃げてきた人たちのお話は、カウンセラーでさえ疲弊してしまうような内容が多かったです。

そんなに酷い暴力から逃げてきたのに、翌週に相談室に行ったら、被害者の方が自宅に戻ってしまったということも何度かありました。せっかく脱出したのに不安になって戻ってしまう。被害者の心理には「自分一人では何もできないかも」という自己肯定力のなさによるものと、「夫には私がいないとダメだと思う」という共依存の心理があります。

長くDVのサイクルの中にいると本当に抜け出せなくなる。だからこそ、小さなDVの芽に気付いてほしいのです。

家庭の中にDVの芽があるかもと思ったら、まずは一人で抱えずに相談してください。これまでの相談を通じて感じるのは、DVに巻き込まれやすい人の特徴は自己肯定感の低い人です。

「あなたは自分のことを何%好きですか?」

これはカウンセリングでよく投げ掛ける質問です。もし70%以上ですと答えられる人は問題ありませんが、50%以下なら自己肯定力を上げるトレーニングを行ってください。

まずは日記帳を用意。そして「自分の長所」と「今日の良かった出来事」を毎日書き続けます。繰り返していくと、自己肯定力が上がって前向きになれます。トレーニングを一人で続けることが大変ならば、カウンセラーに伴走してもらうのもオススメ。

とにかく続けることがとても大切で、継続100日で思考習慣は仕上がります。ちなみに私は100%自分のことが大好きです(笑)。

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